隠れオタでもいいじゃないか

主にPCゲームの二次創作を書かせていただいています。  あとは最近やっているゲームやら読んでいるラノベやらのこととか……。

「それは舞い散る桜のように完全版」2008年10月30日発売

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  [ 藤浪朋子 SS ]   # 34  <固定リンク>

それはすぐ傍に(15)
 あるところに一匹の野良猫がいました。その猫は天がこぼす悲しみのかけらの中、群れからはぐれぽつんと佇んでいました。
すれ違う動物たちはみな、その猫に声をかけていきます。
「ねえ、どうして独りなの?」
「寂しくないの?」
「友達はどこに行ってしまったんだろうね」
みな口々に猫のことを心配しました。けれども猫にはその言葉の意味が理解で
きませんでした。
猫にとっては独りでいることは当たり前だったからです。


                       (15)

「ん…………」
 まだ覚めやらぬ意識の中、私は不思議と居心地のいい雰囲気を感じていた。
 ふわふわとする感覚。
 夢を見ていたようでその内容を詳しくは覚えていない。
 なんとなく懐かしい気分になっている自分。もしかしたら昔のことを夢に見ていたのかもしれない。
 あるいは夢など見ておらず、そう思っているだけなのかもしれない。
 どちらにしろ夢などとはそんなものだ。時間がたてば夢の内容はもちろん、まどろみの中でそんなことを考えていたことさえ忘れてしまうだろう。

「あ、さ…………」
 もう朝になったのだろうか。明り取りの天窓から優しげな光が注ぎ込んでいる。
 脳が少しずつ目覚めていくのを感じる。手足を伸ばしながら身体を起こす。そのまま窓まで行きカーテンを開く。
 天候は晴天。そして何時も通りの町並み。

 ――そう、いつも通り。

 時間を見ればそろそろ用意をしなければならない時間だった。再び閉じようとする意識をはっきりさせるために洗面所へ行くことにした。


「ふう……」
 学校に着くなり溜息をひとつ漏らしてしまった。
 無意識に出てしまう辺りやはり疲れているということなのだろうか。
 最近はテスト勉強のために夜遅くまで起きていたので、体に不調が出るのも仕方が無い。けれどもただでさえ出席日数が少ないのだ。このテストで挽回しておかないと後が辛い。
 そうでなくても妥協して低い点数を取るなど私の矜持が許しそうにも無い。
 まあ溜息の理由はそれだけではないのだろう。

 数日前の昼休みの出来事――竹内先輩との会話が未だ役に立ってはいないからだ。
 あの絵のことを上倉先生に確認できていない。
 ただ単に『パンフレットの絵を描いた人を知りませんか?』と聞く、これだけだ。
 にも関わらず私はこの数分も掛からない話を切り出すことができないでいた。

 テスト勉強のために時間がなかった。
 上倉先生と会う機会がなかった。
 あったとしても急ぎの用があり、話をすることができなかった。

 言い訳を考えればいくらでも作ることができる。
 しかしそれを言い訳として捉えている時点で、既に自分が逃げていることに気付いている。
 私は知りたいと願う一方で、あの絵を上倉先生が描いたのではないと分かるのが怖いのだろう。
 ただそこまで分かっていながらどうしてそう思っているのかが分からない。
 何度自問自答を繰り返そうが一向に答えが出そうに無い。
 私は青空を仰ぎながら、もう一度溜息をついた。
 今から始まる期末テストよりも数倍憂鬱だった。


 テストは滞りなく終わっていった。勉強の成果もありかなりの出来だったと思う。
「ほら、お前等チャイム鳴ってるぞ、さっさと教室に入った入った」
 最後のテストの時間、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 その声が誰の声か理解すると同時に教室のドアから担当の先生が入ってくる。
「あれ、お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんじゃないだろ、試験を始めるぞ。早く席に着かないと欠席扱いにするからな」
 そんなやり取りをしながら上倉先生が教卓の前に着く。
 学園の中でも『お兄ちゃん』と呼ばれる教師は彼だけだろう。
 それにしても彼が前に立っているというのは不思議な気分だ。
 私は美術を選択しているわけではないので、彼が教師という実感があまりなかった。しいて言えば校内で私に話しかけてくる変わり者といった位置づけだった。
 だからまあ、なんと言うか……新鮮な気分だ。
「もしかして、お兄ちゃんウチのクラスの担当なの?」
「まあ、そういうことだ」
「やった、なんかラッキーな気分♪」
 意識的に無視していたが、どうしてもその声が聞こえてきてしまう。
 クラスの喧騒の中でも澄んだソプラノボイスは一際大きく聞こえる。
「アホか、俺がいるから点が良くなるわけでもないだろう」
「そんなことないよ、お兄ちゃんがいてくれるだけで私のやる気がぐっと上がるもん」
「はいはい、わかったわかった」
 そんなやりとりを何人もの生徒が苦笑しながら横目で見ている。
 鳳仙エリスは良くも悪くも目立つ人物ということだろう。
「こんなに嬉しがってるんだから、少しぐらい喜んでもいいんだよ?」
「なに言ってるんだか……そんなくだらないこと言ってないで席に着け」
「むぅ〜、くだらないことないのに」
 いい方向では、彼女は同性異性問わず人気があるという点だろう。
 彼女の特出した容姿。絵画の才能。そして見た目の美麗さと中身の無邪気さのギャップ。なにより彼女には他人を引き付ける何かがある。
 悪い方向では彼女には華がありすぎるという点だろう。
 要するに妬みとひがみ。一般人からすると彼女は自分に無いものを持ちすぎているということだ。
 さらに付け加えるなら上倉先生にべったりだということぐらいか。以外に彼は女生徒に人気がある。そのため上倉先生に近づく女生徒に対し必要以上の敵愾心を向ける鳳仙エリスは非難の対象となる。
 しぶしぶと席に戻る鳳仙エリスを横目で見送りながら、そんなことを漠然と考えていた。


 チャイムに合わせ上倉先生が終了の号令をかける。
 その声にクラスに漂っていた緊張感が弛緩し、あちこちから悲鳴と安堵の声が上がる。ちなみに私は安堵の側だったと思う。授業に出れていない分、自分で勉強していたのだ。点数が悪いのを、学校を休んでいたこという言い訳で逃げたくなかった。
 私の体はそんなにも悪くない。日常生活にはなんの支障も無い。
 だから手術なんて――――
「ん…………」
 また余計なことを考えそうだった思考を切り替える。
 ホームルームまでは時間がある。少し風に当たってこよう。
 席を立ちテストの結果で騒ぎ合っているクラスメイトの間を抜けていく。
 そのたびに休みの予定を話し合っている声が嫌でも耳に入ってくる。
 まったく、気分を変えようと教室を出ようと思ったのに、余計に陰鬱な気分になってしまった。
 しかし教室から出たところでさらに気分の下がる出来事が待っていた。
「ねえ、試験も終わったことだし、ちょっとお散歩して帰らない?」
「俺にはやることがあるんだよ」
 教室から出ると上倉先生が鳳仙エリスと廊下で会話をしていた。
 といっても内容は会話というよりも、鳳仙エリスが上倉先生に構ってもらいたがっているという様子だ。
 構図としてはじゃれ付く子犬とその飼い主。
「やることってどんなこと? 時間かかりそう?」
「色々とあるんだよ。だから今日は一緒に帰ってやれない」
 上倉先生は鳳仙エリスの問いかけに、面倒くさそうにしながらも、結局は律儀に応えている。

 普段の私ならそんなものに見向きもせずに無関心を突き通していただろう。
 しかしなぜだろうか。私の足はついつい二人のほうへと向かっていた。
「……あんた、まだ居たの? とっとと職員室に戻りなさいよね」
「藤浪か、今日はまたずいぶんとご機嫌斜めだな」
 別に機嫌は悪くなかったのだが。他人から見れば今の私は機嫌が悪く見えるのだろうか。
「そうだよ、せっかくお兄ちゃんがきてくれたのに、どうしてそんなに嫌そうに言うの?」
 ――訂正しよう。たった今機嫌が悪いことを自覚した。
 なぜ目の前の人間は全て上倉先生を中心にして考えるのか、全く理解できない。
「心底嫌だからよ」
 誰が、とは言わないが。
「嫌われるようなことしたの? お兄ちゃん」
 まず第一に自分ではないと思えるところもさすがだ。
「散々ね」
 そう言いながら考えてみると上倉先生と会ってから一週間程度しかたっていないのだと実感した。
 思えば最初に会ったときは私が発作で倒れてしまったのだった。あの時は私はかなり怒鳴ってしまったのだが、結局は上倉先生に保健室まで運んでもらってのだった。
 そういえばどういう格好で運んでもらったのだろうか。もしかして誰かに見られていただろうか。
 考えるだけで思わず赤面してしまう。
 翌日は会えなくてもやもやした気分になっていた。
 もう一度会ったときには思ったような理想的な人ではなくて、思ったような嫌な人間ではなかった。だからこそ今でも普通に会話を交わすことができるのだろう。
 それからも何度か上倉先生と会う機会があった。なんだかずっとからかわれているような気もするが、それでも腹立たしく思ったこともあったが嫌な気はしなかった。
 いつの間にか強張っていた顔はゆるみ、穏やかな気分になってきた。

「お兄ちゃん、本当に朋子ちゃんに嫌われるようなことしてないの?」
「ったく、してないって言ってるだろ。お前はどうしてそうまで俺を疑うんだ? 寧ろ俺はエリスが迷惑かけてないか心配だな」
「そんなことないよ。朋子ちゃんだって――」
 私が上倉先生との出会いを思い出しているうちに、いつも間にか二人の会話はどちらが私に迷惑をかけているか、という責任の擦り付け合いになっていた。
「二人とも同じくらい迷惑よ」
 白熱しだした二人につっこみをいれる。
「おいおい、俺が何をしたっていうんだよ?」
「そうね、例えば女生徒の腕をいきなり掴んだり、抱きしめたり、背後を付回したりとかね」
「はぁ!? ちょっとまて、それは――」
「なんてね、ちょっとした冗談よ。でもあんたの態度しだいではどうなるか分かんないけどね」
「……教師を強請るつもりか?」
「さあね」
 もちろん冗談だ。しかしそんな実の無い会話をしていても私の顔はほころんでいた。いつもならこんな無駄な会話など自分からしようとは思わないのだが。
 上倉先生も苦笑を浮かべているものの、実のところこの会話を楽しんでいるのだろう。めんどくさそうな返答ではなく、友人と交わすような雰囲気で会話をしている。
「それより藤浪は試験の手ごたえはどうだったんだ?」
「別に普通よ。それじゃあ行くところがあるから」
「でももうすぐHRの時間だよ?」
 私が歩き出そうとすると、さっきまでつまらなそうに私たちの会話を聞いていた鳳仙エリスが横から声をかけてきた。
「すぐ戻るわよ」
 足を止めることなく返事を返す。
 私には珍しく素直に鳳仙エリスの言葉に返事をしていた。それほどまでに私の気分は良かったのだ。
 だからすれ違いざまに見えた、鳳仙エリスの嬉しそうな表情の意味も気にはならなかった。


 ようやくHRも終わり放課後となった。
 勉強が嫌いというわけではないが、やはりテストという一種の拷問から開放されたという実感が身体を包んでいる。
 あくびをかみ殺しながら廊下を進む。さすがに太陽が黄色いというほどではないが、それでも光が眩しく感じられる。
 体もなんとなく倦怠感がまとわりついている気がする。やはり連日の夜更かしがたたったのだろうか。とりあえず今日は早く帰るべきか。
 そう思ったのだがまた別の考えが頭をよぎる。
 久々の休みだ。本屋でも巡ってみようか。いやいや、このところタロウと遊んでいなかったから探してみようか。
 時間の使い方という贅沢な悩みを抱えながら昇降口を出たところで本日二回目の遭遇を果たした。
「おう、藤浪。今帰りか?」
「……ええ、そうよ」
 突然横から声を掛けられたために誰が呼びかけたのか分からなかった。
 そのためやや不機嫌な返事を返してしまった。
「相変わらず不機嫌そうな顔だな。試験も終わったんだから明るくしたらどうだ?」
「あんたに会ったからこんな顔になったの。会わなければハッピーだったわよ」
 これは半分だけ本当で半分嘘。
 不機嫌そうな顔になっていたのは見知らぬ人間に話しかけられたと思ったから。
 かといって上倉先生に話しかけられたからといって、あからさまに態度を変えるのはどうかと思う。
 その結果がこれだ。
「テストのすぐ後に会って帰るときにも会って……一日に二度も会うなんてホント最悪だわ」
 いつもこんなセリフしか出てこない。決して嫌われようと思っているわけではない。だからといって好かれる努力をしているわけでもないのだが。
「神様の気まぐれに感謝だな」
「フン、居もしないやつの気まぐれなんかありゃしないわよ。
そもそもね、そんな腹の立つ気まぐれなんかに感謝するいわれはないってのよ」
 それはハリネズミのジレンマのようなものだ。
 近づきすぎても後が辛くなる。離れすぎれば今が辛い。
「そんなにオレが嫌いか……」
「もちろんよ、好かれてるなんて勘違いされただけで虫唾が走るわ」
 だからこれ以上深入りさせないように辛い言葉を紡ぐ。
 そのせいで離れてしまったとしてもそれは仕方が無い。この先に大きな後悔をするぐらいなら、たった今小さな痛みを抱えたほうがましだ。
「気は済んだかしら? もう帰らせてもらえる?」
「ああ、また来週な――」
「っどーん!!  さよーならー、センセー!!」
 私が踵を返そうとした矢先、突然上倉先生の背後へ小さな塊が飛び出したきた。
 その勢いのまま上倉先生に飛びついた――もとい、勢いをつけて突き倒した。
 人間の体は構造的にくの字に曲がらないと思うのだが大丈夫だろうか? ちなみに背中向き、つまり海老ぞりにだ。まあ世の中には仰天人間もいるだろうが、上倉先生はおそらく一般人だろう。そう言えば海老ぞりというのに海老は前屈しているのではないだろうか?
 突然の出来事にしばし呆然としていて、なにやら変なことを考えてしまっていた。
 それにしても本当に大丈夫だろうか。かなりいい角度で腰に入り、倒れるときは顔から落ちたように見えたが。
「あれー? 腰を押さえてどーかしたの?」
 けれど目の前の中学生――いや、小学生は自分が何をしたのかも分かっていないような天真爛漫な笑顔を浮かべている。
「どうしたもこうも…………、萩野……お前がいきなり腰に体当たりをしてきたんだろうが……」
 腰をさすりながら恨みがましい視線で小学生を見ている。
 どうやら名前は萩野という名の小学生は上倉先生の知り合いらしい。さすがに上倉先生の子供ということではないだろうから近所の知り合いだろうか。あるいは生徒の妹とかが有力だろう。
「あっはは、センセーってばあれぐらいでだらしないのー……って、あれ? この子はだあれ?」
 そこにいたってようやく私の存在に気付いたのか、少女はぱたぱたと靴音を鳴らしながら私のほうに駆け寄ってきた。
「誰かなー? だーれかなー? 誰なのかな〜〜?」
 私の周りをぐるぐると回りながら、変な節をつけた言葉を繰り返す。その姿からなんとなく子犬を想像してしまうのは私だけだろうか。
「………………」
 それにしてもこの少女はいったい何者だろうか。初対面でこうも馴れ馴れしく近寄ってくる相手はあまり好きではないのだが。それに加えて子供というのもあまり得意ではない。
「こら、萩野。お前はどこのお子様だよ」
 そんな様子を見た上倉先生は萩野の襟を掴み自分の傍らに引っ張った。
「きゃんっ!!」
見た目どおり体が軽いのだろう。簡単に引っ張られた萩野は、バランスを崩しながら数歩後退したところでようやく止まった。
「も〜、センセーってば何するのー」
 両手をばたばたさせながら、恨みがましい視線を上倉先生に向ける萩野。頬を膨らませうなる様子はやはり小学生だ。
「何もしてないだろ。ったく、藤浪が怯えてるじゃないか」
 けれど萩野のそんな抗議も軽く流す様子からは、こんなやり取りは日常茶飯事だといった印象を受ける。
 そんな親しげな様子や、私の知らないこととか、先ほどまでの複雑な気持ちや、怯えてると馬鹿にされたこととかがぐちゃぐちゃに絡み合って、上手く言えないが心の中にもやもやした気持ちが湧き上がってきた。
「ふじなみさんっていうの?」
「怯えてなんかないわよ。つーかアンタこそ誰よ」
「はーい。私はねー、二年B組、萩野かっなでーす」
 勢いよく手を上げて返事をする萩野。いちいちうるさいお子様だ。
「二年生なんだ……。それにしては結構育ってるのね……」
 萩野の上から下まで見てみると小学二年とはあまり思えなかった。少なくとも高学年と思っていたのだが。
「ホント? ほらセンセー、ふじなみさんが私のこと育ってるってー。やっぱり分かる人はいるんだよね〜」
 嬉しそうにはしゃぐ萩野。やはり小学生でも見た目より大人に捉えられるのは嬉しいものなのだろうか。
「おいおい、藤浪。こいつのどこが成長してるって? そりゃあお前と比べたらそんなに変わらんがな、お前は病院暮らしが長かったんだからお前を基準にしたら駄目だろう」
 別に私の小学生のころを基準にしているわけではないのだが。世間一般の小学二年と比べても結構背が高いのではないだろうか。
「も〜、いい加減センセーも私が魅力的だって認めようよ」
「いやいや、それはお前の思い込みだ。藤浪は結構育ってるとしか言ってないぞ」
 少し考え事をしている間に二人はまたじゃれあいを始めそうな雰囲気だった。
「それで、この子は何? 先生の従兄妹かなんか?」
 そんな雰囲気に割り込んで質問をする。少し強引な割り込み方だったかもしれないが仕方がないだろう。
「ん? ああ、こいつはな…………なんだろうな」
「も〜、何でそこでとまるかなー」
 不満げに口を尖らせる萩野。
「センセーはね、私のオシショー様なの」
「ちょっと待て、萩野。そりゃいったい何の話だ」
 私の同様の疑問を先生も持ったようだ。というより当事者が疑問に思う関係なのだろうか。
「センセーはいつも私の小説を読んでくれるじゃない。だからオシショー様なの」
「それは師匠とは言わないだろう……」
 なるほど。先生の近所に住んでる子供が自分で作った話を聞いてもらいに来たということか。制服を着ているのは誰かのお下がりか借りてきたか。それにしても――
「こんな子供が小説なんか書けるわけ無いでしょ。できてお話がいいところよ」
「え〜、どうしてー? 私ちゃんと小説書けるよ〜?」
「無理無理。アンタみたいな小学生に起承転結のある物語なんか作れないわよ」
「えっ?」
「ん?」
 何故か萩野と先生が同時に疑問の声を上げる。何か変なことを言っただろうか。
「藤浪、誰が小学生だって?」
「はぁ? アンタ馬鹿? 話の流れで分かるでしょ。こいつよ、こいつ」
 傍らにいる萩野を指差しそう応える。しかし先生の反応は予想したものではなかった。
「………………」
「………………」
 先生と萩野は目を点にして私の顔を見ている。
「………………」
「………………」
「ち、ちょっと、何なのよ」
「………………」
「…………ぷっ」
 突然先生が我慢しきれないとばかりに吹き出した。一度堤防が崩れると後は止めようがない。
「ぶわっはっはっはーーーー、藤浪、お前、くっ、くくく」
 お腹を抱えて大笑いする教師を初めて見た。というより何がそんなに面白いのか。
「萩野が小学生って……、わっはっはっはっは」
 息をするのも苦しいとばかりに笑い続ける美術教師。理由が分からないだけに不気味だ。
「も〜、ふじなみさんってば、ひどいよ〜。私は小学生なんかじゃないよー」
 そう抗議する萩野。どうやら私が彼女を小学生と間違えたことがつぼにはまったらしい。
「小学生じゃなかったんだ……。でもそうすると中二にしては背が低いわね。それに子供っぽいし……」
 そう応えると萩野はまたもや驚いたような表情で固まってしまった。
「だっはっはっはっは、止めろよ――くっくっく、これ以上、俺を、笑わせるなよ――はっはっは」
 ついにはしゃがみ込んでしまった。何がそれほど面白かったのかは分からないが、話しかけられる状況では無さそうだ。

 それから暫く笑い続けた一教師。その間に校門を潜る生徒が奇異の視線でこちらを見ていたのは気にしないでおこう。
「あ〜苦し。――ったく、藤浪もあんまり笑わせるなよ」
 よく分からない抗議をする教師。理由がわからないだけに理不尽な気がする。
「勝手に笑い始めたのはアンタでしょ。いったい何がそんなに可笑しかったのよ。むしろアンタのほうが可笑しかったわよ」
「あ〜萩野、お前が説明してやれ」
 再び吹き出しそうになるのを何とか堪える教師。こいつはホントに教師なのだろうか。
「酷いよーふじなみさん。私はちゃんとした撫子の生徒なんだから。ここの学園の二年生だよ」
 撫子を指差しながら抗議する萩野。この学園の二年生と言うことはつまり――
「そういうことだ。つまり萩野はお前の先輩って事になるな。それをお前は小学生だの中学生だの」
「はぁ? 何言ってんのよ。こんな小さいのが私の先輩なの?」
 目の前の先輩(仮)を見下ろしながらもう一度考えてみる。――思考終了。一瞬で答えが出た。やっぱりどう考えても先輩には見えない。
「も〜、だめだよ藤浪さん。人の身体的特徴を笑ったりしたら。学校で習わなかったの?」


 ――生憎学校にはほとんど行ってないのよ――


「っ、……それは先輩としての威厳が感じられないからでしょ?」
 つい反射的に出そうになった言葉を押し込める。代わりに見た目どおりの印象を応えておく。
「それには同感だな。萩野はもう少し落ち着いたほうがいいぞ」
「二人して分かってないな〜。私にはこんなに大人のみりょくがあるのに」
「どこがよ。少なくとも私より小さいじゃない」
「え〜そんなことないよ〜。このぐらい普通だって。ねえせんせー?」
「いやいや、普通じゃないぞ。今時の中学生、もしかしたら小学生より小さいんじゃないか?」
 先生も私と同じ事を思っていたらしい。腕を組みながら何度も神妙に頷く。
「まったく見る目が無いんだから〜。そんなだから霧センセーに愛想尽かされちゃうんだよ」
「どこからそんな噂が流れていくんだ……。ったく、そんなの根も葉もない話だ」
 霧先生? ――ああ、あの新任の熱血体育教師の桔梗先生か。あまり体育の授業に出ていないので誰だかすぐに浮かんでこなかった。
 しかし何故ここであの人の名前が出てくるのだろうか。
「それに私がみりょく的な大人て言うのはね〜、見た目だけじゃなくて中身もなんだよ」
 自慢げに胸を張る萩野。にしてもどこからその自信が来るのか。見た目以上に中身のほうが子供っぽいのではないのだろうか。
「それにちゃんと小説だって書けてるでしょ〜? 大人のしょーこだよ」
「まだそんなこと言ってんの? アンタなんかに書けるわけないでしょ。冗談も程ほどにしとかないとつまんなくなるわよ」
 先ほどと同じ意見だが意味は違ってくる。
 大人っぽい小中学生ならお話ぐらいは作れるかもしれない。けれどいかにも足りなさそうな、子供っぽい高校生には話しすら作れないだろう。第一普通の高校生にだって小説を書けるはずない。
「この学園で小説を書けるのは萩野――」

 ――はーい。私はねー、二年B組、萩野かっなでーす――

「……か、な――」

 ――萩野かっなでーす――

「……先輩……」

 ――萩野かっなでーす――

 何度も頭の中に先ほどのフレーズが繰り返される。停止した頭がゆっくりと起動を始める。
「おーい藤浪〜? どうした〜?」
(いやいや、よく考えなさい朋子。まずこの学園には萩野可奈さんが在籍している。そして萩野可奈さんは小説を書ける。オッケー、ここまでは大丈夫)
 次はこの目の前の少女のことだ。
(この少女はこの学園に在籍している。先輩だといっているがそこは考慮から省いておこう。そして名前は萩野可奈と名乗っている。さらに小説が書けると言っている。つまりは――)
「あ〜、それ私のことだよ〜。藤浪さんも私のこと知ってたんだ〜」
「そうだな。俺の知る限り学園で小説を書いているのはこの萩野だけだし、こいつ意外に萩野なんて名前のやつはいないぞ」
「ほらほら〜、私の言ってたこと嘘じゃないでしょー? 私はちゃんと小説書いてるんだから〜」
「そうみたいだな。ところで藤浪、どうしてお前はいつまでも固まってるんだ?」


「あ、その……なんていうか、う〜〜〜」
 先ほどから数分たったにも関わらず、何を話していいか全く分からない。
 目の前にいるのは『あの』萩野可奈さんなのだ。にもかかわらず私は可奈さんにあんな態度をとり続けていたのだ。いくら可奈さんが広い心を持っていたとしても、今さら何と離しかければいいのだろうか。
 それ以上に憧れの対象が目の前にいるのだ。緊張しないほうが無理というものだ。
(えと、ええと、やっぱりずっと黙ったままっていうのは印象悪くなるかな。でもなんて話しかければいいんだろ……。話題……なんか話題があれば――そうだ上倉先生が知り合いだっていうなら先生のことについて話せば……でも何で上倉先生が可奈さんの師匠なの……、美術と執筆じゃ分野が違うのに――違う違う、そんなこと考えてる場合じゃない。とにかく上倉先生の話題で話そう。でもよく考えたら上倉先生のことなんてあんまり知らないし……それに可奈さんは先生と仲がよさそうだからあんまり悪口言ったら不快にさせちゃうかも……あ〜どうしよう……話題……なにか話題は――)
「でもでもー、一年生の子にまで知られてるって事は、私ってば有名人? 有名人? きゃー、サインなんて頼まれたらどーしよー?」
 オーバーヒート寸前の頭をフル稼働していると可奈さんの声が耳に入ってきた。どうやらサインをくれるらしいのだが――
「……そ、そんな……さ、サイン、なんて……」
(頼んでもいいのかな? 確かにサインは欲しいけど今何も持ってないし……。それにいきなりサインが欲しいって言うのは図々しいような。でも可奈さんが書いてあげるって言ってるし……)
「おい萩野、藤浪が困ってるぞ? ったく、変な押し売りはするんじゃない。藤浪は萩野のサインなんていらないって言ってるぞ」
「え、あ……ち、ちが……」
「そっかー、ざーんねん。練習してみよーかなーって思ったのになー」
「そ、そうじゃ……なくて……」
(サインがいらないんじゃなくて……)
「でもでもでも、有名人には違いないよね? ねー?」
「は、はい……」
 それは間違いない。学校にも結構読んでいる人がいるはずだ。
「ところで藤浪さんはなんてお名前なのー?」
「あっ……」
 そういえば私は一度も名乗っていなかった。これでは失礼にも程があるだろう。
「ふ、藤浪、朋子……です……」
「そっかー、朋子ちゃんて言うんだねー。それじゃあ朋ちゃんだ〜。よろしくね〜」
「は、はい……」
 ――朋ちゃん。そう呼ばれたのは何年ぶりだろう。なんだが胸の奥が暖かく、嬉しくなってくる。
「あ、あの……お願い、しても……いい、ですか?」
 ふと可奈さんの名前を呼ぼうとしたときにあることに気がついた。私は可奈さんのことをなんと呼べばいいのだろうか。先輩? 萩野先輩? 可奈先輩? それとも可奈さん?
 名前を呼び合うような友人がいないのでその辺りの境界が良く分からない。
「なにかなー? 今はとーっても機嫌がいいから、何でも聞いちゃうよー」
「……か、可奈先輩って……名前で、呼んでも……」
結局私は本人の了承を得ることにした。これなら問題は無いだろう。
「あっははは、いいよ、いいよー。もー、朋子ちゃんってばイチイチそんなの聞かなくてもいいのにー」
 そうなのだろうか、初対面でいきなりそんな馴れ馴れしくして問題が無いのだろうか。私ならかなり嫌がると思うのだが。
 やっぱりそのあたりは人間としての出来が違うのかな。
「それじゃあこれからもよろしくねー、朋ちゃん」
「は、はい……。こちらこそ、よろしく……お願いします。……可奈、先輩……」
 なんだか心があったかい。上手く言葉にできないけれど……うん、悪くない。


「それじゃー私はこれからよーじがあるから。センセー、朋ちゃーん、ばいばーい」
 大きく手を振って駆け出していく萩野先輩。バイタリティーに溢れている人だ。
「行ったか。ったく、いつでも騒がしいやつだ。ところで俺はもう一度職員室に用があるんだが藤浪はもう帰るのか?」
「……ん、帰ります……」
 萩野先輩のおかげで今は幸せな気分だった。だから今の気分を誰にも邪魔されたくない。
「そうか、それじゃあな。気をつけて帰るんだぞ」
「はい、……その、先生……さよなら……」
 そう返事をすると先生は一度驚いた顔をした後、笑顔を零した。
 不覚にも幸せな気分が倍増してしまった。
 私は緩んだ顔を隠すように踵を返して校門を抜けていった。
 たまにはこんな日も悪くない。





申し訳ありません

と声を大にして誤ります。木曜日までには〜とか大嘘つきました。もしかして来週の木曜か? とか思ってしまった皆様方、すいません、先週の木曜日にアップするつもりでした。

 なぜそうなったかというと…………

 やっべ課題終わらん → 終わった〜息抜きしよ →らき☆すた見る → SS書かんとな〜 → あれ、いい表現が思いつかんな〜
→ まあ気分転換でもしよっと → ゲーム中 → 以下エンドレス

 だって面白いんだもの。「来い、トレイター」

 ついでにいうと構成をどうしようかと。次の16話で展開が変わるからそれまでに終わらせときたいなって思ってね、どこで切っていいのか分からんくてね、結局大容量になってしまったとさ。

 とりあえず期末テストがあるから正直微妙。てなわけでたくさん書いときました。ごめんなさいね〜。(⊃Д`。)゜


心の栄養、プライスレス



テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  [ 未分類 ]   # 33  <固定リンク>

ほんとに時間がないんです↓
 アップするつもりだったのにできませんでした。

 いやほんとに言い訳すら思いつかないほどに時間がないです。

 もう7割がた書けていて、内容もできてるんです。

 でもいろいろと…………。

 きっと木曜日にはアップします。


 代わりにmixiを見てやってください。

  [ Canvas2 side story ]   # 32  <固定リンク>

悔しくも楽しい思い出
「上倉先生っ!!」
 生徒たちが行きかう校舎に私の声が響き渡る。
 何事かと私のほうを振り向く生徒たちだったが、声の主とその対象が誰であるかを確認すると、またかといったような呆れ顔に変わる。
「か・み・く・ら・せ・ん・せ・い?」
そう呼ばれた美術教師は、私の顔を見るなり黒猫と出会ったかのような嫌そうな顔そして見せた。
もっとも、その黒猫は前を横切るのではなく近づいてくるのだが。
「いったい部活にも来ずに何をやっているんですか!?」
「あ、いやな、部長……。これには事情が…………そう、とても大切な事情があったんだ」
「そうですか。それは美術教師である先生が、美術部の顧問という職務を放り出してまで取り組まなくてはいけない大切な用事だったんですね? それはもう教え子のことを放り出してまでやらなくてはいけないほどに」
「い、いや……そこまで重要なわけでは無いような…………」
「違うんですか?」
「いえとても大切な用事ですっ!!」
 やや目を細めて優しげに問いかけてあげると、何故か先生は敬語になりました。いったいどうしたんでしょうね。それにいつの間にか周囲に生徒がいなくなっているし。
「それで、その用事というのは?」
「それはだな、食後の運動というものだ。そう、教師というのは学校にいる間はあまり動くことは無いからな。それに美術教師だと基本動くことは無いからな。というわけで健康のために校内を歩いて回っていたところだ」
「それはとてもいいことですね。ですが先生? 今はもう放課後ですよ?」
「……………………」
「……………………」
 二人分の沈黙の間をからすが泣き声をあげながら通っていった。



 Canvas2 竹内麻巳SS 〜悔しくも楽しい思い出〜


「全く、上倉先生ときたら……」
 早足で美術室へと戻り席へと着く。思わず溜息をついてしまうほどに私は疲れていた。
「お帰り麻巳。それで先生は――って、そんなこと聞く前に一発で分かっちゃったわ」
 お疲れ様、と苦笑を漏らす楓子。そんな一言労われるだけでも苦労が報われるというものだ。
「ありがとう楓子」
「いいって。大変なのは麻巳なんだから」
 既に他の美術部員は作業に取り掛かっている。私はイーゼルを用意しながらもう一度溜息をついた。
 先ほども上倉先生に部活に来るように言っていたのだが上手く逃げられてしまった。
 私が部長になった当時はもう少し部活に来てくれたのだが、最近は何かにつけて部活に来ることを拒んでいるような気がする。
 拒んでいる、というのは少し言いすぎかもしれない。が、それでも部活に来ることに対しあまり気乗りしていないのは確かだ。
(いったい何がいやなのかしら。私に油彩を教えてくれたのは上倉先生なんだし。あの時はすごい親身になって教えてくれたのに……。毎日一緒に絵を描いていたのにどうして来てくれないのかしら……。自分でも自覚できるくらい上達して行ったのは本当に嬉しかった。それなのに――)
 今日も部活に引っ張ってこようとしたら、偶然通りかかった哀川先生に――
「麻巳〜?」
 ふと横から声が掛かる。何かと思い横を向けば楓子が笑いを堪えるような顔でこちらを見ている。それだけではない。見渡せば教室中の部員が手を止めている。とある新入生を除いて。
「……みんな……どうしたの?」
 普段は集中している部員が、今は何故か楓子の方を――正確には私のことを見ている。
「あの、竹内さん」
 逆側から田丸さんがおずおずと声を掛ける。いったい田丸さんまでどうしたというのだろう。
「あ〜ん、どうして部活にてくれないのかしら。あのときはすごい親身になってくれたのに〜。毎日いっしょだったのに〜」
「なっ!!」
「本当に嬉しかったのに〜」
「〜〜〜〜っ」
「麻巳ってさあ、何気に独り言多いよね。もう聞いてるこっちが恥ずかしいわよ」
 なんてことだ、今のが声に出てたなんて……。あぁっ、よく見れば他の部員も笑いに耐えているような。
「は〜い、それじゃあみんな切り替えて作業に戻りましょ。夏休みまでに作品を完成させないと目も当てられなくなるわよ」
 楓子が私の代わりに部員に声をかける。本来なら私の仕事なのに、申し訳ない気持ちだ。
 いやいや、この騒ぎを起こしたのは楓子なのだからその責任を取るのは当たり前、なのかな? でもよく考えると独り言を呟いていたのは私なんだから自業自得なのかな。でもそれはなんだかおかしいような。
 そうだ。どれもこれも上倉先生のせいだ。よし、明日こそは来てもらおう。そうすれば前みたいに絵を教えてもらえるはずだ。
 決意を新たに右手を力強く握り締める。ああ、窓の外に先代部長の姿が……。待っていてくださいね。私があの栄光の美術部の姿を取り戻して見せます。
「ま〜み。次は百面相?」
 楓子の一言で再び美術部は笑いに包まれてしまった。


「上倉先生」
 翌日。私はいつものように気だるげに歩く背中に声をかける。するとまるで万引きGメンに見つかったかのように、とたんに背筋が伸びる美術教師。こんな姿でスーパーにいれば、今からやりますといっているようなものだ。
 油の切れたブリキのおもちゃのように振り返る我が顧問。
「こんにちは、上倉浩樹先生」
「お、おう。部長……どうしたんだ? なんだか笑顔が引きつっているように見えるが」
「そうですか? 私はもともとこういう顔ですが。それに引きつっているといえば上倉先生のほうもなんだか変ですよ」
「いやいや、そんなことは無いぞ。俺の顔はいつでも引き締まっている。そう、身も心も常に引き締め生徒と真摯に向き合う。そんな教師をつねに体現しているといっても過言では無いぞ」
「そうですか。言っていることは非常に素晴らしいと思いますが、どうして目線を逸らしながら言うんですか? 何か後ろめたいことがあるのではないのでしょうか。例えば部活のこととか部活のこととか、あるいは部活のこととか」
「あの〜〜部長さん? 何か怒っていないかな?」
「当たり前ですっ!! 昨日は話しの途中で逃げ出して……、それでも教師ですか?」
 思わず大きく溜息をついてしまう。先代部長が常に疲れたような表情でいたのも分かる気がする。
「昨日は哀川先生をだしにして逃げられましたが、今日はそうも行きませんよ」
 人差し指をびっとたて上倉先生に詰め寄る。
「それに哀川先生に確認しましたから。昨日は特に上倉先生と何も話をしなかったと言っておられましたよ。まったく、哀川先生はバスケ部のほうで忙しいんですからあまり迷惑をかけないでくださいね。先生と違ってお忙しい方なんですから」
「おいおい、それじゃあ俺がまるで暇人のような言い方だな……」
「違うんですか?」
 きっぱりと言い返してあげると苦笑いの表情で宙に視線を漂わせる。
「忙しいというのは美術教師の仕事をしてから言ってください。他の先生方の邪魔をするのは仕事とは言いません」
「そんなことは無いぞ。昨日だって本当に哀川先生の相談に乗っていたんだよ」
 上倉先生が相談?
 いかにも嘘っぽいその言葉に冷ややかな視線を送る。上倉先生は一瞬ひるんだが、それでも気を取り直して話し始めた。
「本当だぞ? だがなその相談というのはプライベートな話でな、おいそれと生徒に話すわけにはいかなかったんだ。だから哀川先生もそう言ったわけだ」
「なんだかあまり信じられない話ですね」
「おいおい、少しは教師を信用したらどうだ?」
「それでは信用に足りる態度をとってください。例えば今日の部活に出て教師としての責任を果たすとか」
 そう返すと上倉先生はやぶへびだったとの表情を浮かべた。まったく、教師がなんて顔をしているのかしら。
「あ〜、そうだな、気が向いたら行くことにする」
「気が向いたらって、そう言って来てくれたことなんて数えるほどしか無いじゃないですか。信用できません」
「……まさか回数まで数えているのか? かったるいことしてるな」
「言葉の綾です。とにかく、そんな万年頭の中が桜でいっぱいの駄目人間のようなことは言ってないで今日は部活に来てくださいね!? 約束ですから」
「ったく、そんな勝手に決めんでくれ。俺にもいろいろやることがあるんだよ」
「それならどうして私の目を見て言わないんですか?」
 先ほどから全く視線を合わせようとしない先生を、下から覗き込むように見上げる。
「そう上目使いで見上げんでくれ。なんだか変な気分になってくるだろ」
「これは身長差のせいです。それになんですか、変な気分って?」
「それはだな、美人の部長にそんなに見つめられたら恥ずかしくなってしまうということだ」
「なっ――」
「それに竹内と目を合わせているとな、こう緊張するんだ。いやいや本当に高校生とは思えないな」
「そ、そそそそんなお世辞は結構です」
「そんな謙遜するなって。俺は本当のことしか言わないぞ――っと、もう昼休みが終わるな。部長も早く教室にもどれよ」
「美人…………」
 私は早足で廊下を進む上倉先生をよそに先ほどの言葉を反芻していた。
 上倉先生は顔がいいだけにああいう台詞が違和感なく似合ってしまう。そのあたりの女生徒ならコロっと騙されてしまうのではないか。もちろん私はそんなことで騙されたりはしないが。
「はぁ……」
 小さく息を吐きながら教室へと足を向ける。
 なんだか気分が高揚していたのは何故だろうか。
 軽くなった足で廊下を進み――
「あ〜〜〜〜っ!! 誤魔化されたっ!!」
 ――自分の失態に頭を抱え込んだ。


「今度こそは……」
 放課後、私はホームルームが終わると急いで美術準備室の前に行き、上倉先生を待ち伏せることにした。
私がちょうど準備室の前にたどり着いたまさにそのとき、ドアが開き上倉先生が姿を現した。
「こんにちは上倉先生。どこかにお出かけですか?」
 鞄を手に持ちいかにも帰りますといった雰囲気を纏っている教師に、私はにこやかに挨拶を投げかける。
「部長……どうしてここにいるんだ……?」
「何をおっしゃっているんですか? 美術部の部長が顧問と話をしに来たんじゃないですか。特におかしいところは無いと思いますが」
「まあ、そうだな……」
 冷や汗を拭う上倉先生。私はにこやかに挨拶をしただけだというのに、いったいどうしたというんでしょうね。
「それで最初の質問に戻りますが、いったいどこへお出かけでしょうか?」
「いや、これには深い事情があるんだ」
「いいでしょう。その深〜い事情というのを教えてくれませんか?」
 一瞬言葉に詰まった上倉先生でしたが、一度咳を入れてその事情を話し始めました。
「実はだな、今日は体調が悪いんだ。本当は出たいんだがな、こんな調子で出ても部長に迷惑を書けるだけだと思ってな。それで今日は早めに帰ることにしたんだ」
「体調が悪いんですか? それならどうして昼に会ったときに言ってくれなかったんですか?」
「いやな、病は気からって言うだろう? だから気力で何とかなると思ったんだが、やっぱり駄目だったんだよ……」
「上倉先生……」
 知らなかった。私は上倉先生が我慢していたことにも気づかず部活に来て欲しいとしか言わなかった。
「いいんだよ、部長。教師っていうのは生徒の要望に応えるもんだ。それも熱意のある生徒の頼みなら尚更だ」
 気丈にも笑顔を見せる上倉先生。それでもその顔はなんだか辛そうだ。
「今はコンクール前で大変な時期だからな。俺の勝手な自己満足で部員に迷惑をかけるわけにはいかないからな」
「そんなことはありません!! 上倉先生のお気持ちは私が受け取りました。代わりに私が美術部をまとめますから。先生はゆっくりと休んでください」
「すまないな竹内…………」
「気にしないでください。それよりもごめんなさい」
「それこそ気にするな。――それじゃあ後は頼んだぞ、部長」
「はいっ!!」
 上倉先生を見送りながら私は気持ちを入れなおした。
「先生、私はちゃんと代わりを勤めます」
 右手を握り締めながら空を見上げる。清々しい青空に約束をかわした。




「鳳仙さん、上倉先生の体調はどう?」
「えっ?」
「ほら、昨日体調が悪くて帰られたでしょう?」
「あの……」
「本当はお見舞いに行こうとも思ったんだけど、さすがに迷惑かなって思って。それで先生の容態はどう?」
「元気、ですけど……」
「それなら良かったわ。もしかして鳳仙さんが看病してくれたのかしら?」
「竹内部長、さっきから何の話ですか? お兄ちゃんなら私が帰ったときから元気でしたけど。昨日もご飯を作った後はごろごろしながらテレビを見てましたよ」
「………………え?」
「ですから、体調なんて悪くありませんでしたよ。寧ろいつもより元気そうでしたけど」
「う〜〜っ、また騙された〜〜〜〜っ!!」




「てな感じだったよな」
「もう、その話は忘れさせてください」
 キャンバスの横で上倉先生と共にコーヒーを飲む。
 横には完成を待つ私の作品。正面には私に苦渋をなめさせた当の本人。
「あれから一年もたってないんだよな……」
 懐かしそうに呟く上倉先生。
 確かに私も懐かしく思う。もしあの頃上倉先生が真面目に顧問をしていたら今の私はどうなっていただろうか。IFは好きではないのだが、それでも考えてしまう。
 こんな風に冬休みになってまで連日美術室に篭ることはなかっただろう。それに上倉先生とこんなにも親密になるなんて――――
「そうですね。上倉先生のおかげで退屈しませんでしたから」
「おいおい。そんなことを今更持ち出すなよ。今は真面目に出てるだろう?」
「さっきのお返しです」
 小さく笑いながら描きかけのキャンバスに目を向ける。
 私の素直な気持ちを籠めた水彩画。上倉先生が私の心を見たいといったから筆を執ったこの絵。絶対に完成させてみせる。
 そう思い右手を強く握る。
 くしゃ、という感触と共に零れ落ちる液体。
「熱っ〜〜、って眼鏡が〜〜」
「大丈夫か? ほら、こっちに来い」
 手を握られて流し台の前に連れてこられる。
「気をつけろよ。絵描きにとって手は命みたいなもんだ」
 手首を掴む上倉先生の体温が伝わってくる。
 そうだ、私はこの人を繋ぎ止めるためにも絵を完成させる。そして私の気持ちを伝えてみせる。
 ――けれど今だけはこうしててもいいわよね?
 半歩となりに移動する。
 絶対にこの温もりを話したくないから。







 申し訳ないっす。(⊃Д`。)゜

 との一言ですね。
 中間テストとか実験とかバイトとか部活とか……。この時期はどうしてもね。
 とにかくリクエストで多かった部長の苦労話を。やっぱ難しいな〜。某所の部長サイトはとてもがんばっておられるとしみじみ感心しました。

 次はドラゴンを進めようかな。まあ予定は未定。

 ついでに大それたことを考え中。
 その内容を少し話すとね、Fateにどうしてイリヤルートが無いのかと。
 常々思っていたのですが、ないのならいっそと。
 まあできたらですけどね。今は描きたいのに時間が無い。
 気分はザ・ワールド。ついでに時よ止まれ――って感じ。

 新進気鋭の小説家、ただし執筆は老後の楽しみ、みたいなっ!
                           mixiより。こっちも見てやって……


 


 


 作者と読者をつなぐ架け橋とならんことを☆

テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

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予定は未定
東鳩2AD情報公開!!

てな感じのテンションです、まる。


 学校の課題で毎日がデス・マーチの状態です。水曜日に中間テストがあるからそれが終わったら少し楽になるかな?

 んでタイトル通りまだ次に何を書こうか未定です。とりあえずドラゴンは書くとして、それ以外になんか無いですかね?

 てなわけで何かリクエストがあればどうぞ。品質は保証しかねますが何とかやってみようかな、と。ついでにどんな話がいいかも言ってもらえればかなり書きやすくなります☆

 東鳩はアナザーデイズが出るから一応候補に入ってマス。はやくでないかな〜♪
 コメディは書けるかどうかわかんないけどいざ挑戦!!






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