隠れオタでもいいじゃないか

主にPCゲームの二次創作を書かせていただいています。  あとは最近やっているゲームやら読んでいるラノベやらのこととか……。

「それは舞い散る桜のように完全版」2008年10月30日発売

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  [ 藤浪朋子 SS ]   # 40  <固定リンク>

それはすぐ傍に(18)
                        (18)
 夢を見た。
 それは懐かしい夢。
 見渡す限り白い世界。けれどそれは『何も無い』というわけではない。
純粋な白。希望と暖かさが感じられる優しい色。

 そこは本当に幸せな世界だった。
 住人は二人。私と――――もう一人はお兄ちゃんだろう。
 だろうというのは顔が上手く思い出せないからだ。それは夢の中だからか、それとも記憶が曖昧になっているからだろうか。とにかく顔は覚えていない。けれども確かにその人がお兄ちゃんだったと断言できる。
 その存在が、周囲を取り巻く雰囲気が、私が幸せだったという気持ちが、夢の中の登場人物がお兄ちゃんだと当時の私が訴えかけてくるようだった。


 夢の中のお兄ちゃんはまるで魔法使いみたいだった。
 猫が見たいといえ猫を、鳥が見たいといえば鳥を、桜が見たいといえば桜を描いてくれた。私は彼の絵が好きだった。彼の手から生み出される作品は実物以上に本物らしかった。当時の私はなんとなく『らしいところ』をちゃんと描けていると思ったものだ。今にして思えば描く対象の本質、別の言い方をすれば対象の使われ方を上手く描けているんだと理解できる。もっともその『本質』とは何か、と問われると応えることができないのだが。
 まあ兎に角、私は彼の描く絵に夢中になっていたものだ。それと同時に『おはなし』を作るのが楽しかった。
 お兄ちゃんが描いた動物たちを主人公にして、頭の中でいろいろな話を空想していた。たまにお兄ちゃんに話すと、とても面白そうに聞いてくれた。私はそれが嬉しくてまたいろいろな『おはなし』を考えた。

 そんな夢のような話――――

 私はまだ心地よいまどろみの中から覚めきっていない思考を現実へと引き戻した。
 現在の時刻は7時を回ったところ。ベッドの上で上半身を起こしただけの格好で固まるほど15分といったところだろうか。先ほどからずっと夢のことを反芻している。昔のことを夢に見るなどめったにないためか、それとも単なる気まぐれか、あるいは別の理由か。もっとも寝起きで上手く回転しない頭が生み出した思考だ。なんの意味も無いだろう。

 ――――うん、だんだん意識がはっきりとしてきた。
 やや時間が掛かったがようやく正常な考えができるようになってきたようだ。取り合えず先ほどの夢をもう一度考えてみよう。寝起きだったとはいえ、私が夢のこと考えていたことにそれなりの意味があるのだろう。

 夢の内容は記憶にあることとほぼ同じだった。違った点はお兄ちゃんの顔がぼやけていたこと。けれども夢の中の私はそれがお兄ちゃんだと認識していたこと。結構な矛盾なのだがまあ夢だからどうとでもなるのだろう。
 次に私が創った『おはなし』のこと。確かに私はおにいちゃんが描いてくれた絵を見ていくつかの『おはなし』を考えた気がする。けれども記憶にある限りではどんなもの考えたのかは覚えていないはずだった――――のだが、今はなんとなく思い出せる。夢というのは記憶の整理とよく言うけれどそのおかげだろうか。まあとにかく1つだけぼんやりと思い出したのだ。
 その話というのは猫の物語。
 子猫が絵描きと出会い楽しく遊ぶ話。お兄ちゃんは最初どこかの歌みたいだと言った。当時の私にはよく分からなかったがその後俺たちみたいだなと言われたことが嬉しかった。
 まあ単純な理由なのだが、絵描きはお兄ちゃんをイメージしていたのだろう。猫は私。理由は一番好きな動物だったからだろう。
思えば猫と絵描きが楽しく暮らす話は、きっと私の望みだったのだろう。いつか元気になってお兄ちゃんと外で遊びたいと。
 そんな希望をお兄ちゃんが理解してくれたことが嬉しかった。お兄ちゃんと一緒に遊園地に行ったり動物園に行ったり、そうでなくてもお兄ちゃんと居られれば楽しかっただろう。私の横でお兄ちゃんが笑っていてくれたなら――――

「――――っ!?」

 危険だ。

 かなり危険だ。

 今の私の思考はデンジャーゾーンを突っ切ってレッドゾーンに達している。
 何気なく。そう本当に何気なくだ。誓って何の他意もなく、ごく自然にお兄ちゃんの笑っている顔を想像したのだ。
 そうしたら――――――――なぜか上倉先生の笑顔が浮かんできたのだ。

 危険だ危険だ危険すぎる。これはもしかすると、いやもしかしないでもないがもう何を言っているか訳が分からないが――――私はいわゆる『恋しちゃってます』という状態では無いだろうか。
 話を聞いている限り、恋をすると世界が変わって見えるとか、四六時中相手のことを思うだとか、まあ私には関係の無い話だと鼻で笑っていたのだが実際に自分が当事者になってみるとかなり危険な状態だと実感した。
 というより、そうやって私が恋をしていると改めて認識するともう駄目だ。先ほどよりも一層想いが募っていく。なんか、こう、もどかしいような悶えたいような変な感じだ。
 近くにあった枕をぎゅっと抱きしめベッドの上をごろごろと転がる。
 なんだか世界が回っている感じだ。きっと外に出れば今までとは違ったものが見えるのだろう。
 ベッドの上を行ったり来たり。もう本当に変な感じ、けれど嫌な感じではない。今の気持ちを例えるなら初めての海外旅行というところだろうか。旅行は楽しみだけど外国に行くのはちょっと不安だと思う気持ち。
 今の私も――――まあちょっと会いたいかな、と思わないでもない。いや本当に少しだけだから。
 
 これはもう末期的な症状では無いだろうか。初期を通り越して過程を無視して完全に惚れている。自分では恋愛に関して結構ドライだと思っていたのだけれど、これは自己分析をしなおさなければいけないようだ。
 枕の横にもたれかかっているぬいぐるみも、なんだか呆れたような視線を向けている。きっと私の思い込みなのだろうが、それでもやれやれといった溜息が聞こえてきそうだ。実際以前の私がこの場にいたら、はっきりと『馬鹿じゃないの?』と痛い子を見る視線を送っていただろう。
 窓の外を飛ぶ鳥たちも私を哀れんでいる気がして仕方が無い。
 部屋の入り口で微笑んでいる真崎さんも手間の掛かる子を見るように、苦笑して、い、る…………?
「………………」
「……………………?」
「…………………………」
「………………………………おはよう、朋子ちゃん☆」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


 本当に驚いたときは声が出ないと知りました。(有名私立学生、10代女性談)


「な、ななな!? いいいつ?」
 瞬時に布団を引き寄せベッドの端まで後ずさる。しかし冷や汗だらだら、内心ドキドキで固まっている私を見た真崎さんは、何かを考えるような素振りを見せると、一歩下がってドアを閉めた。
 そしてドアを三回ノック。
「おはよう、朋子ちゃん。――あれ、どうしてベッドの端で小さくなってるの?」
「――――小さな親切が逆に人を追い詰めることもあるんです。そんな棒読み口調で無理するぐらいなら寧ろ思いっきりいじってくれたほうが気が楽です」
「あら、朋子ちゃんにそんな趣味があったんだ。でも残念ながらそれはまた今度にとっておこうかな。今日は別の楽しみがあるし」
 意味深な笑みを浮かべると手早く朝食の用意を済ませる真崎さん。こういう手際のよさはやはり賞賛すべき点ではあるのだが、今の私の意識は大部分が別の事象に向けられていた。
(――何かおかしい。この人が私の失態を見逃すとは思えない。普段ならばここぞとばかりに私をいじり倒すはずだ。みすみすこんな好機を逃すなんて何か裏があるはずだ。考えろ、考えなさい。この人の思考パターンを、長年接してきた経験を読み取る――)
 この人が手を緩めるのは私を油断させるため。一度気を抜いたのは不意打ちをかけるため。ということは。
「そういえば上倉先生、今日は来てくれるかな?」
 一瞬心臓の鼓動が大きくなった気がしたが、あくまで冷静に応える。
「さささささあ、どうでしょうね〜。先生も部活があるでしょうしお忙しいのではないでしょうか」
 あくまで冷静、のつもりだったのだが完全に失敗している。というよりこの人はそんなことまでお見通しだったのだろう。薄く浮かべた笑みが幼稚園のお遊戯会を見ている大人の顔になっている。
「それじゃあ朋子ちゃんは来て欲しいと思ってる?」
「へ? あ、いや……まあ来てほしく無いとは言いませんけど、それでも無理してまだ着て欲しいとは思いませんよ。私はあくまで一人の生徒ですから、それに上倉先生は担任でもありませんし」
 言ってて少しへこんだ。確かに上倉先生には何度か助けられたけどそれは成り行きだ。私は撫子学園に通う多くの生徒の中の一人。上倉先生と関わりを持ったのだって偶然に過ぎない。だからあの人が私に会いに来てくれる保障なんて何処にも無い。
「そうそう、昨日の話しだけど朋子ちゃんのご両親と例の先生、何かいろいろと話をしていたわね。結構長い間話してたみたいだけど何の話題だったのかしら」
 何の話題と言われても、こんなときに両親と先生が話す話題といえば私のこと意外に無いだろう。しかし私の何を話したのだろうか。
 学校での私の態度――それは結構まずいかもしれない。他の先生にはそれなりに対応しているのだが上倉先生に対してはかなり扱いが違う。もしそうだとしたら両親はずっと先生に謝り続けていたのかもしれない。
 私の交友関係――壊滅的だ。私の友達は誰かと尋ねられたときに真っ先にタロウが出てくる辺りかなり危険だ。知り合いと言えば可奈さんと竹内先輩もギリギリ入るだろう。ちなみにクラスメイトは論外だ。そんな事情を両親が知れば大騒ぎすること間違いなしだ。
 というかそれ以外にも思いついた話題のほとんどが危険なものだ。というよりいい話題が無い。今更だがよく上倉先生が愛想を尽かさなかったものだなと思う。
 だんだんとテンションが下がってきた。もう背後に影を背負って擬音をつけてもいいぐらいだ。
「ところでご両親と話をするって言うと、なんだか結婚を申し込んだ恋人みたいね」
 真崎さんは私のテンションをお構いなしに微笑んでいる。
 しかしそんな感情とは別に、真崎さんの言った言葉をどうしても意識してしまう。というか結婚はまだ早すぎるだろう。それに恋人にもまだなっていない。や、だからといって恋人になりたいとか言っているわけではなく一般論として、それに倫理的にも教師と生徒というのは駄目だろう。別にそれが上倉先生に当てはまるわけではなく――――

「それで上倉先生、今日は来てくれるかしら」
 そんな私の様子を見ていた真崎さんは楽しそうに微笑んで部屋を出て行った。
「まあ上倉先生の名前を呟いて赤くなって枕を抱きしめながらベッドを転がって悶える朋子ちゃんは来て欲しいと思ってるでしょうけどね」
 去り際に致命傷を与えながら。
「ここで来たか…………」
 暫く癒えそうに無い傷を負わされた私は、朝食が置かれたテーブルに突っ伏しながら敗北を味わっていた。
 ちなみに一時間後に食べ終えた朝食はもちろん冷め切っていた。





弁解の余地も無いほどに9月ギリギリの更新です。イやもうホント申し訳ない限りで。ほんとのところ9月中に終わらせる気満々だったのですが、あと5,6回、もしかしたらそれ以上掛かるかもしれません。とりあえず次回の話は描きやすいと思うので早めの更新にしたいです。あくまで希望ですけど…… orz

 んでもって毎回の事ながら感想を説に希望というかなんというか。








ちなみに今は聖なるかなとC72のゲームをプレイ中。聖なるかなの合間にちょこちょこと。にしてもなるかなは長いね。個別ルートやる気にならん。どっかにデータ落ちてないかな┐( ̄ヘ ̄)┌

テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  [ D.C. SS ]   # 39  <固定リンク>

これも一種の花嫁修業〜山荘に事件はつきものです〜
 季節は夏。
 木々が鮮やかに色づき、生けるものたちは力強く合唱を始める。
 太陽から伸びる日差しを浴び大きく膨らんだ雲を見送る。
 
 学生たちは夏休みという節目を向かえ気分を入れ替え心身ともに充実した時間を過ごす、そんな充実した季節。
 私たちはこの猛暑を乗り切るため山間の別荘地に来ていました。
 強い日差しを遮り、安らぎの空間を作り出す木陰。鳥たちは幾重にも重なるようにさえずり夏を優雅に飾り立てます。
 小川のせせらぎはそこにいるだけで涼しげな空気を味あわせてくれます。
 ここへは何度も来ていますが、今回はそれまで以上に弾む気分です。
「本当にいい場所だな、美咲。つれてきてくれてありがとな」
 足を小川に浸しながら私の隣で嬉しそうに笑顔をほころばせるのは、私の恋人さんである純一さんです。
 『恋人さん』と呼ぶときに詰まらなくなったのは練習の成果です。やっぱり『恋人』と呼ぶとちょっと恥ずかしいです。私には『恋人さん』と呼ぶ方が合ってる気がします。それに『彼氏さん』と呼ぶのもかなり恥ずかしいですし。
「さっすが美咲ちゃん。こんないいところなら毎年でも来ちゃいたいね〜」
 斜め上から掛かる言葉は芳野先生のもの。純一さんの背中にもたれながら持ってきたジュースを飲んでいます。純一さんは暑いから離れろ、って言っていますがあまり嫌ではないみたいです。
「ホント鷺澤先輩はすごいですね〜。美春のお父さんも変なものばっかり買ってないで、こういうところにお家を建てて欲しいですよ」
 純一さんの右隣では天枷さんが足で水を遊びながら涼んでいます。純一さんは彼女のことを『わんこ』と呼んでいますが、活発で可愛らしい様子はまさに無邪気な子犬を見ているようで心が和みます。
 そして――――
「ええ、誘ってくれて有り難う御座います、鷺澤さん。兄さんも楽しそうで良かったですね。――――女の子に囲まれて」
 背後から背を焦がすような視線と声が突き刺さってきます。笑顔にも関わらず、背から冷たい汗が湧き出てくるのはどうしてでしょうか。



 これも一種の花嫁修業
        〜山荘に事件はつきものです〜



 そろそろお昼の時間が近づいてきたので、私たちは別荘に戻ってきました。
 調理場に立っているのは私とさくらさんと天枷さんの3人です。
 正確に言うと調理場にいるのは4人ですけど…………。その最後の一人が原因で昼食が完成しないわけです。
「だーかーらー。音夢ちゃんは部屋に戻ってなよ。料理はボクたちでやるからさ」
「そうですよ〜。わざわざ音夢先輩のお手を煩わせるほどのことでもありませんし。不肖、この天枷美春にお任せください」
「ですから何度も言わせないでください。料理は女性の仕事です。ですから私も手伝います」
 先ほどから同じようなやり取りが続けられています。さくらさんと天枷さんは、音夢さんに料理を作らせまいと頑なに――というより必死になって拒んでいます。その理由は正直なところ痛いほど分かります。
 現に私は痛い目に合いました。といっても食べたところまでしか覚えておらず、目が覚めたときには純一さんのベッドに寝ていました。えっと、倒れたことよりも純一さんがずっと手を握ってくれてたことのほうが私にとっては重要でした。
「もう、どうして二人ともそんなに頑固なんですか? ねえ鷺澤さんも変だと思いませんか?」
 唐突に話題をふられ困っていると、お二人と視線が合いました。
「……だって、ねえ」
「……ですよね」
「えっと…………」
 アイコンタクトが成立です。
 どうやらさくらさんが全員の意見を代弁してくれるようです。
「音夢ちゃん。そろそろ自分の実力を把握したほうがいいよ。自分の武器も理解せずに社会に出たらすぐにブタ箱行きだよ。もちろん集団食中毒テロの首謀者として」
「つまり私の極上の料理を食べるのがもったいないと思った人たちが、そんなに日持ちもしないのに料理を取って置き、その結果食中毒になるということですね」
「うわ〜、すごいポジティブシンキングですね。正直美春でもそこまでは行けませんよ」
「あの、音夢さん? とりあえず料理をするのは私たちに任せてもらえませんか?」
「は?」
「ひゃう!!」
 目線だけで人を殺せるのは本当ですっ!! 冗談なんかじゃありませんって!!
「美咲ちゃん、世の中には正論が通じない人たちがいるんだよ。無理も通りも押しのけて進すむところが音夢ちゃんらしさなんだから」
 さくらさんが私の頭を撫でながら慰めてくれます。
 もう訳が分かりません。しかし音夢さんは混乱する私を待っていてくれる人ではありませんでした。
 音夢さんは溜息をつき、呆れたように私を一瞥しました。
「まったく、料理をするなっていうのなら私に何をしろというんですか?」
「音夢先輩は空のお鍋でも回しててください」
「音夢ちゃんは鍋でも回してたら? ただし空のままね?」

「あの……空のお鍋ならすぐに用意できますけど……?」
「……………………鷺澤美咲。そこまでしてライバルを追い詰めたいんですか?」
 なんで私だけ!? それになんで私が!?  むしろライバルですか? 私はただお鍋が必要という話でしたから口を開いただけなのに。というより空のお鍋で何をするつもりなのでしょうか。
「鷺澤先輩。勝負に敗れたヒロインは空のお鍋を回すという鉄の掟があるんです。そもそも発端となったのは某柑橘系の会社が生み出した――」
「美春、誰が解説しろといったのかしら?」
「え? あ、その……元ネタを知らない良い子達に正しい知識を教えてあげようかと……………あ、あはは、あはははははははは」
「――――――――はぁ?」
「失礼しました〜〜〜〜〜〜〜〜」
 脱兎のごとく駆け出していく天枷さん。音夢さんは獲物をしとめそこなったスナイパーのように小さく舌打ちをすると私たちのほうへ向き直りました。
「仕方がありませんね。あなたたちがそこまで言うのなら今回は手を引いておきましょう。まあこういうところで点数を稼いでおかないと、サブキャラ扱いのヒロインなんて簡単にぽいされちゃいますからね」
「突っ込んだら負けだからね」
「は、はい」
 思わず口からでかかった言葉を飲み込み、さくらさんと頷きあいました。音夢さんとの付き合い方もそろそろ分かってきた今日この頃。
「それじゃあ音夢ちゃんは美春ちゃんを呼んできてくれないかな? お兄ちゃんもそろそろ降りてくる頃だよ」
「そうですね。あの子も出番の無い可哀想な子ですしね」
「出番?」
「にゃっ!? 美咲ちゃん!?」
 思わず聞き返してしまった私にさくらさんが驚きの声を上げました。 けれど私がその言葉に反応する前に音夢さんが意味ありげに微笑みました。
「ええ、出番です。美春ったらシナリオの追加もされない、冬のファンディスクでもロボにおいしいところを奪われ、あまつさえ夏のファンディスクではシナリオ自体が無いなんて。まったく不甲斐ないにも程があります。仕方がありません、私がヒロインとしての自覚を芽生えさせてあげましょう」
 懐いている後輩に辛らつな評価を下す義理妹(予定)。虚ろな視線に本能的な恐怖を覚えてしまうのは私だけでしょうか。
「…………でも作者は音夢ちゃんのシナリオをやらなかったみたいだよ。むしろ美春ちゃんの出番が見たくてアリスシナリオをやってたらしいけどね」
「本当ですか? いや〜美春もそこまで人気が出るとは思っていませんでしたよ」
 先ほどから柱の影で頃合いを見計らっていた美春さんが、照れ笑いを浮かべながら出てきました。
 音夢さんは天枷さんを一瞥しただけで話を続けました。
「ですが他人のフォローばかりしているなんて人生の無駄です。かの赤い人はいいました。贅沢は心の贅肉だと。へんに気を使っている暇があったら新規シナリオのひとつでも書いたらどうですか?」
「音夢ちゃんは身体の贅肉を気にしたほうがいいんじゃない? 主に胸とか胸とか胸のあたりとか」
「ネムのムネですか。芳野先生上手いこと言いますね〜。あっ、そういえば普通兄妹で住んでるのなら『お風呂場でばったり☆』のイベントがあってもおかしくないですよね? なのに音夢先輩にはそんなイベントの気配なんて微塵もありませんでしたよね〜」
「「「………………………………」」」
「そんなことだから白河先輩に出し抜かれるんですよ。音無先輩がやらないから代わりに白河先輩がやっちゃいましたよ。もうお風呂場の磨りガラスってあんなにエロかったんですねえ。なんかこう、ぼやけた中にも薄っすらと見える曲線がエロだっ!! って断言しても言いぐらいでしたよ――ってあれ? どうしたんですか皆さん? それに音夢先輩もどうして震えているんですか?」
 ――痛い。空気が痛すぎます。もう白河さんとそんなことがあったのかとか、どうして天枷さんがそんなことを知っているのかだとか、それにしても天枷さんの台詞はおじさんくさいとか、そんなことはどうでもいいくらいに空気が張り詰めています。
 例えるなら盆の有明の扉が開く瞬間のように!!
「美咲ちゃんの知識、随分偏ってるね…………」
 さくらさんが遠い目をしながら小さく呟きました。
 そんなことをしている間にも空気はどんどん険悪になっていきます。天枷さんは全く気付いていないようですが、音夢さんから発せられる威圧感が痛いほど身体を突き刺していきます。
 そしてまさにその膠着状態が破られようとした瞬間――――
「おい美春、いつになったら昼飯ができるんだよ」
「あっ兄さん、ごめんなさい。美春がどうしてもバナナを混ぜるんだって聞かなくって」
 ――――純一さんがキッチンに入ってきました。
「さすがは音夢ちゃん。一瞬で裏モードと切り替えたね。ついでとばかりに美春ちゃんに責任を押し付けるあたりが抜け目無い」
 音夢さんは先ほどまで纏っていた剣呑な雰囲気を消し去り、普段純一さんと話すときのできた妹の姿に戻っていました。
「…………おい美春、昼飯が遅れたのはお前の仕業か」
「うえぇぇぇ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! 美春たちは音夢先輩を止めようと――ほら、芳野先生からも朝倉先輩に言ってあげてくださいよ!!」
「美春ちゃんごめんね〜。ボクも自分の命が一番大事だからさ〜」
 そう苦笑しながら応えるさくらさんの背後には、氷の笑顔で肩を掴んでいる音夢さんの姿がありました。もちろん純一さんから見えない角度で。
「美春ったらいつまでも子供なんだから。兄さんもそう思いますよね?」
「ったく、あんまり迷惑かけるんじゃないぞ。バナナは一人で食べてろよ」
純一さんは嘆息まじりの呆れた視線を天枷さんに投げかけました。
一方、身に覚えの無い罪を擦り付けられた天枷さんは何とか弁解を試みますが、音夢さん相手では分が悪いのかどんどん泥沼にはまっていってしまいます。
「ですから、美春はバナナを混ぜようなんて思っていませんってば」
「だったら何でこんなに遅くなるんだ? 案外バナナを混ぜてみれば上手くなると思ってたんじゃないのか?」
「ですからそれは確かに思いはしましたけど――――」
「まあまあ兄さん、美春だって悪気が合ったわけでは無いんですよ。もう少しでできますからリビングで待っていてくださいね」
「…………音夢ちゃん、美春ちゃんを弁護するふりをして説明をさせないつもりだね。ついでにうやむやのまま自分の責任を消すなんて…………」
 さくらさんの感心と軽蔑が見事に混ざり合った呟きは私にしか届きませんでした。
「美春もそろそろ協調性ってものを持っとけよ。いつまでも子供みたいなことできないんだからな」
「う〜〜〜。た、確かにバナナを混ぜようと言ったかもしれません。その可能性は無きにしも非ずです。ですが美春だけの責任というわけではなくてですね、音夢先輩が料理を作りたいと言ったからでして――――」
「本当か音夢?」
 先ほどまで天枷さんに先輩らしい話をしていた純一さんでしたが、『音夢さんが料理を』という言葉が聞こえた瞬間、ばね仕掛けのように態度と相手を180度変えてしまいました。
「…………兄さんは私よりも美春を信じるんですか?」
「音夢ちゃんらしい言葉だね。お兄ちゃんの質問も答えずに、代わりにお兄ちゃんが答えずらい質問をかえすなんて…………」
 その言葉通り純一さんは冷や汗をかきながら左右を見比べています。
「兄さん?」
左では音夢さんが純一さんに微笑みかけています。
「朝倉先輩……」
 右では天枷さんがすがるように純一さんを見つめています。
 どちらを選んでも遺恨が残るこの選択には正解がありません。何とかやり過ごそうと必死に脳細胞を活性化させますが、残念ながら純一さんにはどうしようもなさそうです。
 さくらさんに救いを求めた純一さんでしたが、さくらさんは露骨に――もとい悲しそうに目を背けてしまいました。となれば残る選択肢は――――
「み、美咲。お前も一緒にいたんだよな? どんな状況だったか教えてくれないか?」
「え、わわ私ですか?」
 私の名前が出た瞬間、その場にいる全員がぐるんと私のほうに視線を向けました。
 音夢さんは笑顔のまま、けれど下手なことを言おうものなら…………。
 天枷さんは祈るように手を合わせ、潤んだ瞳で訴えかけています。
 さくらさんは悲しそうな気の毒そうな、そんな優しげな眼差しをしています。
 そして純一さんは申し訳なさそうに、加えて助かったというような安堵の表情で。
 これは…………危険な状態では無いでしょうか。
 手持ちのカードは『説明する』という1つだけ。正直にあったことを話せば文字通り大変なことになってしまいます。かといって逃げることも出来そうにありません。回り込まれた! という状況です。
 失態続きの総理大臣も、言われ放題の親方も、電車の中で紙袋が破れて中身をばらしてしまった有明帰りのおにいさんよりも危険な状態です。
「…………やっぱり美咲ちゃんの知識って偏ってるって」
 今はさくらさんの呟きさえも気にならないほど危ない状態です。
 周囲の緊張感がじわじわと身体を圧迫してきています。呼吸するにも力を使い、気を抜けばすぐにでも意識を失ってしまいそうです。手には汗がにじみ、瞬きの仕方さえ忘れてしまいそうな緊迫した状況。
 もうどうしていいかわからなくなったそのとき、天啓とでも言うべき名案が浮かびました。
「そ、そうですね。確かに天枷さんはバナナを料理に混ぜたいといったかもしれません。けれどそれは押し付けるようなものではなくアドバイスのようなものでしたから。
 音夢さんが料理を作りたいといったのも、ただ一人で見ているだけというのが申し訳なく思ったからなんです。けれどキッチンに3人も立てば狭くなってしまいますから。そういうわけでお断りしていたんです。
ですから誰が悪いというわけでは無いんです。それも純一さんに美味しい食事を出そうと思ったからなんです」
我ながら驚くほどの流暢な説明。これほど長く話をしたのは産まれて初めてでした。
「おお〜」
 さくらさんも感嘆の声を漏らしました。他の3人も納得したようでやっとキッチンに平穏の空気が戻りました。

 

 十数分後、ようやく昼食の準備が整いました。メニューはハヤシライスとシーザーサラダ。とフルーツを混ぜ合わせたヨーグルトです。カレーは何度か作ったことがあっただけに、今回のハヤシライスもなかなかの出来だったと思います。
「カレーにバナナが合うんですから〜、やっぱりシチューにもハヤシライスにもバナナを入れるべきれすよ〜」
「ねえ、美春ちゃん? なんだか呂律が怪しいような気がするんだけど……」
「え〜気のせいれすよ。まったく芳野先生も小はいことばかり気にしすぎれすよ。小さいのは身体と胸だけにしてくらさいね〜」
「…………美春ちゃん、酔っ払ってるみたいだね〜」
 さくらさんが声を震わせながら苦笑しています。もっとも手に持っていたスプーンは音を立てて曲がっている最中なのですが。
「でも本当に美春の様子が変だぞ? いつもならそんな分かりきっていることをわざわざ言うほど失礼なやつじゃないんだけどな……。なんか変なものでも入ってたんじゃないのか?」
 純一さんの意見も十分失礼ではありますけど、美春さんの様子がおかしいというのには同意します。
「でもそんなおかしなものを入れていたらみんな気づくはずですし…………」
「そうですよね。同じ料理を分け合っているわけですし、美春だけに変なものを混ぜるなんてできませんよ」
「でもそれだと美春ちゃんがおかしくなった理由がわからないよね」
「も〜みんらして何をごちゃごちゃ言っているんれすは!? 美春の話は終わっていませんよ〜。いいれすか? バナナにはバナナミンと言うとてもすご〜い栄養素がはいっているんれふよ。それはもうバナナのバナナによるバナナのための神秘と言えるでしょうか。いいえ言えないはずがありません、反語!!」
「…………なあ美咲。本当に変なもの入ってないよな?」
「…………そのはずですけど。だんだん自信がなくなってきました」
「とりあえず美咲ちゃんが入れたものを挙げてみてよ」
「はい。ええと牛肉、タマネギ、ジャガイモ、小麦粉、それに隠し味で赤ワインを少々――」
「「「ワイン?」」」
 三人の声が同時に重なりました。確かに真っ先に思い浮かびそうな原因ではありますけど。
「で、でも、入れたといってもスプーンに2杯程度ですよ? それだけで酔っ払うでしょうか?」
「でもなあ……実際に酔っ払ってるだろ、あれは」
「だよねえ。原因はどうあれ、美春ちゃんは酔っ払ってるみたいだし。ベッドで休ませてあげたほうがいいんじゃないかな」
「何いっれるんれすか!! 美春は酔ってなんかいまへんよ。まったくバナナを食べないからみんな小さいまんま何れすよ。そんなんじゃ生徒に示しがつきまへんよ〜」
「小さくて悪かったね……」
 さくらさんの手が震え、先ほど曲がったスプーンが今度は逆に曲がっていきます。私と純一さんは冷や汗をかきながら成り行きを見守ることしかできません。
「ちょっと美春? 酔っ払っているからって何を言ってもいいわけじゃないのよ」
「にゃむ先輩こそ今更いい人ぶってポイントをかせいだって無駄れすよ。にゃむ先輩が立てれるフラグなんれこれっぽっちもありえませんよ〜。ほんと胸板が洗濯板に見えるくらい平坦で何もないれすって」
「なっ――――」
「確はに胸の大きさらけで女性の魅力が決まるわけれはありませんよ〜。れすけど、胸の大きさが重要なふぁくたーであることは変わりませんよ〜。その分にゃむ先輩は勝負する土台に上がれてさえいないんれすよ」
「――――――――」
 本当に危険です。もう冷戦状態を突き破って一気に宇宙戦争のセカンドインパクトがワールドエンドで星の寿命がなんとやら。もうデットエンドまっしぐらで助かりようがありません。道場の常連さんです。
 先ほどまで一触即発の雰囲気だったさくらさんも、今は結末を見送るしかできなさそうです。 
 そしてとどめ。
「まったく勝負したいのれしたらそれなりの準備をしてきてくらはいよ。なんと言いまふか――――いくぞ貧乳王!! パッドの準備は十分か!? みたいな〜」 
「死亡フラグだね」
「死亡フラグかよ」
「死亡フラグですよね」
 明らかに変わった空気。既に結末の見えた未来は見るに耐えないものです。喜劇にも悲劇にもなれない舞台裏の惨劇が幕を開けようとしています。
「あれ〜どうしてみんな黙っちゃったんれすか〜。はりゃ? にゃむ先輩もなんだか様子がへんれすよね〜。いっはいどうひうげきゅぷっ
 突然の奇声と続く振動音。
 天枷さんの開いた両の目が写すのは白い世界。四肢は力なく垂れ下がり、身体をテーブルに預けるように力なく俯いてしまいました。口から零れ落ちる赤はきっと今食べていた食事でしょうそうに違いありませんそうしておきましょう。そして天枷さんの横にいるのは朝倉音夢さん、その人でした。
「あら、美春ったらこんなところで寝たら風邪ひいちゃうわよ。仕方ないわね、私が運んであげますね」
 明らかな棒読みの台詞ですが、それを口にする人は誰もいません。3人とも目を背けただ凶行が過ぎ去るのを震えながら待つだけです。
「一人で行けるかしら? それとも私が運んであげましょうか?」
(こくこく)
 もちろん天枷さんが答えられるはずがありませんが、確かに天枷さんは首を振りました。音夢さんが乱暴に身体をゆすって。
 かくん、かくんとなされるがままに揺れる天枷さんの頭。同時に首元で切りそろえられた髪が静かに揺れます。そんな様子を見ながら音夢さんはしかたないわね、と呟き天枷さんに手をかけます。
「ちゃんと掴まっててね」
 無表情のまま、天枷さんの襟首を掴み引きずっていく音夢さん。行く先はもちろん客室などではなく、何故か奥の倉庫でした。ゆっくりと引きずられていく天枷さんの姿は悲惨という表現など遥かに通り越して、もはや言葉になどできそうにありません。
 そして扉の閉まる音。数秒後に響く鈍い音とドアの隙間から流れでる赤い液体。
 あれはケチャップに違いありませんいえもしかしたらトマトソースかもやっぱり赤いペンキだっていう可能性もだって倉庫ですからいろいろ置いてあっても変ではありませんしそうそうそういえば血のりの原料はなんでしたっけ授業で習った気もするんですけど忘れてしまいました――――
 
 私にできることなど何もありません。

 部屋の中を包むのは静寂。ずっと鳴いていただろうひぐらしの声だけが耳に残っていました。






最初に言います。コメディなんて書けません。 


 
 もうプロットなんてたてれません。とりあえず更新遅くなってすいませんということだけです。

 なんか書いててもどのあたりでくすりと来るのかはなはだ疑問です。てなわけで『ここ面白い〜』とか『ここ微妙だな……』とかあれば忌憚なく、はっきりずばっと切れ味鋭く容赦なく、でも優しい言葉で教えていただければこれ幸いです。

 次回の更新はいつになるやら分かりませんが、とりあえず9月中には必ず書きますから。









こちらのほうもよろしくお願いいたしますです。

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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