隠れオタでもいいじゃないか

主にPCゲームの二次創作を書かせていただいています。  あとは最近やっているゲームやら読んでいるラノベやらのこととか……。

「それは舞い散る桜のように完全版」2008年10月30日発売

 全記事一覧

記事一覧: 200710

  [ 藤浪朋子 SS ]   # 43  <固定リンク>

それはすぐ傍に(21)
                         (21)

 真崎さんと別れた私は暫くした後自分の病室に戻ることにした。本当は病院の周りをぐるっと散歩しようと思っていたのだが、案の定別の看護師の人に見つかってしまい強制送還されてしまった。真崎さんならば話し相手になってもらうこともできるかもしれないが、関係ない人を暇つぶしの相手に選ぶのもどうかと思ったため大人しく部屋で小説を読むことにした。
 
 ということでここは病室。
 部屋に戻ってからずっと読んでいた小説がちょうど前半の折り返しを終えたので休憩を入れることにした。しおりを挟み大きく伸びをする。ベッドの中に入り上半身を起こした姿勢でいるとどうしても体に疲れがたまってしまう。
 腰を左右に捻りながら身体をほぐしているとサイドテーブルに置いてある時計が4時を半分以上過ぎていることに気がついた。
 上倉先生が前回病院に来たときは4時を少し回ったぐらいだったが今日は何時ぐらいに来るのだろうか。一応上倉先生は美術部の顧問ということだから部活動の指導もしなくてはならないのだろうか。前回授業が終わってからすぐ来てくれたのは部活動が休みの日だったのだろう。生憎私は美術部の活動日を知っているわけではないので予測に過ぎないのだが、もし休みならばもうそろそろ来てくれるだろう。
 サイドテーブルの引き出しから手鏡を取り出し髪型をチェックする。昨日は上倉先生が来てくれることなど予想していなかったため適当に髪をまとめただけだったが、今日はあらかじめ余裕を持って準備できそうだ。


 30分ほど立っただろうか。未だ上倉先生は来ていない。
 残念ながらどうやら今日は美術部の活動日のようだ。いくら知り合いが入院しているといっても自分の部活動をサボってまではこれないだろう。
 こうしていても仕方ない。恐らく上倉先生が来るまであと2時間弱といったところだろうか。続きも気になることだし、それまでにこの小説を読み終えるとしよう。
 私はサイドテーブルからもう一度小説を引っ張りだした。


 どれくらい時間がたっただろうか。小説の世界にどっぷりはまっていた私は、主人公の男の子がヒロインの女の子との行き違いに気付き後悔しているところで意識を引き戻された。
私を強制的に引っ張り出したのは病室がノックされる音。そのことを理解するや否や部屋の前で待機している客人に声をかけた。
「ど、どうぞっ!」
 想していた以上に大きな声が出ていた。これではまるで上倉先生が来ることをよど期待していたみたいだ。いや、来て欲しくなかったわけではないが。
 しかし部屋に入ってきたのは上倉先生とは違った人物だった。
「あらあら、朋子ちゃんってばとっても嬉しそうね? そんなにご飯が楽しみだったのかしら」
 来客者は真崎さんだった。手に持っているのはどうやら食事のようだ。慌てて時間を確認すれば時刻は6時を回ったところ。つまり真崎さんは私の夕食を運んできたのだろう。
「…………いえ、夕食を楽しみにしていたというわけではないんですけど……」
 人を間違えた気まずさからつい言葉が尻すぼみになってしまう。そんな私を見た真崎さんは小さく微笑んだ。
「それじゃあ何を期待していたの? もしかして私を誰かと勘違いした?」
「――――――別に、間違えてません…………」
 焦りから思わず奇声を上げそうになってしまったがそこは何とか我慢。恐らく、いや絶対この人は予想がついている。そのうえで私をからかうためにあえてこんな質問をしているのだ。ならば真崎さんの質問にいちいち過剰な反応をしていては思う壺だ。
「ただ小説に集中していたから驚いてしまっただけです」
 完璧だ。冷静さを保ったまま言い訳――ではなく理由も不自然ではない。これなら真崎さんも余計な冷やかしを入れることなどできないだろう。今日からの私はいつもと違うんだから。
「あら、そうなの。ごめんなさいね」
 真崎さんは心地よい達成感を味わっている私を意味ありげに見つめ、にっこりと笑みを浮かべた。
 いつもならば警戒するところだが、今の私はそんなことは気にならない。最初にアドバンテージをとられはしたが、結果的にはイーブンに持ち込めたのだから。
「あ、そうそう」
 真崎さんは手馴れた様子で食事を並べると、明日の朝食を話すかのような雰囲気で――
「今朝聞いたんだけど、今日は用事で来れないらしいわよ。なんか女の人と食事に行くらしいわよ」
 ――とんでもないことを呟いた。
「ええっ!? ちょっ、そ、それってどういうことですか? というかなんで真崎さんがそんなこと知ってるんですか!? あっ、いえ、別に私が気にしてるとかそういうわけではなくて、ただ上倉先生が誰と食事に行くのかただ一般的な好奇心から気になったわけで――」
 とそこまで言ったところで気がついた。
 真崎さんは楽しそうに微笑んでいる。
 このパターンは……。
「どうしたの朋子ちゃん? 急に興奮しちゃって。私はただ清掃員のバイト君が今日は休みだって話しをしただけなんだけど。ところで朋子ちゃんは誰と勘違いしたのかしら?」
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
 判定――――勝者、真崎楓。
「い、いえ……べ・つ・に……」
 敗者にできることは恥を重ねぬよう平常心を装うことぐらいだった。
 もともとこの人とは生きてきた年月が倍近く違うのだ。当然会話の主導権もあちらに握られてしまう。そんな相手と対等に渡り合えたつもりになるなど、思い上がりもはなはだしい。
 相手は真崎さん。私と一回りも違う年齢(−2歳)なのだから。
 と、心の中で思っておく。迂闊にも口に出してしまったらそこで私の入院生活は終了するだろう。もちろん退院ということではない。
「それじゃあまた後で取りに来るから早めに食べちゃってね」
 恐らくこの前のことを言っていたのだろう。手術前のことだが朝食を食べるのに1時間以上かけてしまいこの人に迷惑をかけたことがあった。
「そうですね。善処します」
 どこぞの議員のような返事を返したが、よくよく考えるとあの時暫くの間朝食を食べれなかったのは真崎さんのせいでもあるような気がする。いわば自業自得。
 まあそんなことを言ったところで何の意味も無いのだけれど。余計なことを考えず今は食事をすることにしよう。ここの食事は病院食にも関わらず意外と美味しいのだ。
 そんなことを考えながら食事をしていると、真崎さんがその場に立ったままなにやら考え事をしていることに気がついた。
「どうかしたんですか?」
 食事中に隣に黙って立っていられるのも気になるので取り合えず声をかけてみた。
「……朋子ちゃん、ちょっと思ったんだけどね」
「……はい」
 真崎さんの真剣な表情にこちらも思わず居住まいを正してしまう。
「ご飯を早めに食べて上倉先生との会話を楽しむべきか、ご飯を食べてる途中で上倉先生に来てもらって食べさせてもらうべきかどっちがいいかしら?」
「はぁ?」
 思っても見なかった質問に思わず間抜けな声が出てしまう。というより質問の意味が理解できない。しかし私が質問の意味を考えるより前に真崎さんが話を進めてしまう。
「会話を楽しむ場合たぶんいつも通りの展開になるんじゃないかしら。ちょっぴり甘めでまあまあ幸せな時間になるんじゃないかしら。まあローリスク・ローリターンというところかしら。
 でも食べさせてもらう展開を選んだ場合は違うわ。一気に進展できるこれと無いチャンスだと思うの。確かにこの選択には危険性も伴うわ。もしも上倉先生が拒否した場合、または朋子ちゃんが上手く事を運べなかった場合、上倉先生との時間が減るばかりか気まずくなって今後の進展にも影響するわ。けれど魅力的な要素もある。つまりハイリスク・ハイリターンね。
 というわけでどちらにするべきか悩んでいるのだけど……」
「…………そんな気遣い入りませんからさっさと出て行ってください」
 思考が追いついたところで真崎さんの言葉を遮る。まったくこの人は何を考えているのだか。
 私は頭が痛くなるのを感じながら、相変わらず真剣な顔をして悩んでいる真崎さんを追い出した。形容しがたい脱力感を大きく溜め気をついて追い出しながら再びベッドの中に潜り込む。
 しかし食事を再開しようとしたところでふと手が止まってしまう。先ほどの真崎さんの言葉が頭をよぎったからだ。
 上倉先生が料理を掬い『あ〜ん』といいながら私の口元に運ぶ。そして私が嬉しそうに食べる姿が。
「……ちょっといいかも……」
 思わず零してしまった言葉にはっとする。瞬時に赤面した顔を隠すかのようにぶんぶんと頭を振る。そのたびに髪の毛が顔をはたくがそんなこと気にならない。むしろそのおかげで冷静になれたぐらいだ。
 先ほどの馬鹿な考えを隠すかのように手早く料理を口に運んでいく。
しかし次第にそのペースはゆっくりになっていく。頭に浮かぶイメージは笑顔の上倉先生が料理を掬っている姿と、とそれを嬉しそうに食べる私の姿。自分で想像しておいてなんだが思わず口元が緩んでしまう。
「――ちょっとストップ」
 暴走しかけた妄想を何とか食い止める。思わず実践しようかと思った思考を隅に追いやり食事を再開する。ペースは先ほどよりも速く。
 けれど、と期待してしまう自分がいる。
 いやいや、と否定し。
 もしかしたら、と手を止め。
 だから、と食事を進める。
 そんな行ったり来たりを6度ほど繰り返しているうちに夕食は終わってしまった。
 少し残念だと思ってしまったのは秘密だ。


 夕食を食べてから数十分。相変わらず上倉先生は来ない。時刻は既に7時を回り面会時間の終了まで1時間を切ってしまった。
 私は窓の外を見ながらぼんやりと昔のことを思い出していた。
 今と同じように私が入院していた頃、私は北海道のとある病院で療養していた。ほんの数週間だったけれど私にはかけがえの無い思い出だった。
 夜の帳が折り始める前、夕日が赤く私の部屋を照らす頃彼は部屋のドアを叩く。それはちょっとした偶然が呼んだ出会いだったけれど私はその偶然に心から感謝した。毎日同じように訪れる彼を待つことは私の入院生活の中で唯一の楽しみといっても過言ではなかった。
 病院の中で流れる時報を告げるメロディを耳にすると、パブロフの犬のように廊下を行きかう足音に耳を澄ましていた。
 不本意ながらその病院を去った後も同じような時間になるとふと彼のことを考えていた。来るはずの無い待ち人。『ありえない』と何度も言い聞かせながら、それでも『もしかしたら』と考える自分を叱咤したことなど数えきれないだろう。

 今の私は昔に帰ってしまったみたいだ。強くあろうと何度も誓い、過去にすがるなと何度も思った。けれど何気ない出来事が私の弱さを思い出させる。自分の弱さを認めようと思ったのは今日のことなのに、やはり自分を否定することなど簡単にはできなさそうだ。
 既に時計の指す時刻は面会時間を過ぎている。

 上倉先生は私のことを覚えていたのだろうか。しかし用事ができてしまいこれなくなったのだろうか。
 それとも上倉先生はもともと病院に来るつもりはなかったのだろうか。もともと約束といっても場の流れからなんとなくしたという感じだった。ただの社交辞令のようなものかもしれない。
 あるいは私の見舞いなど、気にかけるようなことでもないのかもしれない。初日に来てくれたのは本当に自分が運んだ患者の状態を見るだけ。もしかしたら、そう――――病院に来た『ついで』に部屋に来たのかもしれない。
 震える身体を沈めるように下半身にかけていた布団をぎゅっと握る。

 過去のこととか、今のこととか。
 悩んでいることとか、解決したはずのこととか、信じたいこととか。
 知り合いからかけられる言葉とか、顔見知りから投げつけられる視線の意味だとか。
 ――――自分の気持ちだとか。

 ごちゃごちゃに絡み合った心を見失ってしまいそうだった。


 消灯時間を過ぎても私の気持ちはぐちゃぐちゃのままだった。
 相変わらず自分の考えがまとまらず、理解するより先に感情が頭と心を通り過ぎていく。メビウスの輪のように裏になったり表になったり、行ったり来たりを繰り返し時間が進むほど分からなくなっていく。進んでいくのは時計の針と虚しさだけだ。

 日付が静かに変わろうとするころ、ようやくベッドに横たわった。
 これ以上絡まりようの無い思考は自分でも――自分だから分からなかった。
 ただなんとなく感じていることがある。

 ――私は悲しかったのだろう。
 ――私は悔しかったのだろう。
 ――私は寂しかったのだろう。

 しかしそれ以上に思うことがある。

 ――私は悲しかったのだろうか?
 ――私は悔しかったのだろうか?
 ――私は寂しかったのだろうか?

 いや、本当は違う。

 私は上倉先生といたいだけだった。
 あの人の傍にいるだけで私は私らしくいられた。
 余計な仮面などつけずに素直でいられた。がちがちに固められた扉をあっさりと潜りぬけ、何の考えもなしに私を助け出してくれたあの人の傍にいたかった。

 だから悲しいのも悔しいのも寂しいのも、全部含めて。それ以外の全ての感情も含めてここには無い。だから空っぽになり、感情が足りないから気持ちを言葉に表すことができない。
 喜びも、怒りも、哀しさも、楽しさも。その全てが足りないのだ。

 今の私の心はたった一つのことしか願っていないだろう。

「…………会いたいな」
 ぽつりと冷たい雫が頬を伝った。





 今回も何処できろうか散々迷いました↓

 ホントはもうチョイ進めるつもりだったんですけど上手くしめれず断念。しかたなく内容を増やしました。

 
 Canvas祭の話。
 一応プロットが完成しました。プロット作ったのって久しぶりだな〜w
 でもそのSSをこのサイトで公開するか微妙です。
 理由はどうも本編のアフターみたいな時系列になるからです。ですからこのSSがまだ途中の段階なのにもかかわらずそんなもんアップするのもどうかと思ったわけで。
 というわけで11月中ごろまではがんばってこのSSを進め、(無理だと思うけど)もしいいトコまでいけたらこのサイトでもアップ。間に合わなければ祭りのほうでアップ。んでもって終わってから改良を重ねてアップしようかな、と。

 ですから更新できないからといって見捨てないでください。(⊃Д`。)゜

   

 ☆次回予告?☆

 上倉先生が来てくれなかったからかな〜りご立腹の朋子ちゃん。果たして上倉先生がこれなかった理由とは?
 上倉先生は朋子ちゃんの期限と信頼を回復することができるのか!?
 そして朋子ちゃんの病室を訪れる意外な人物とは?

 てな内容でお届けしたいかぎりです。









テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  [ 藤浪朋子 SS ]   # 42  <固定リンク>

それはすぐ傍に(20)
                           (20)

 自分の感覚からすれば手術はあっという間に終わってしまったのだろう。
 実際には昼の12時から始めて終わったのが夕方だということだから、長丁場だったらしい。しかし私は麻酔で眠っていたため、気がついたときには夜でそのまま寝てしまった。結局ちゃんと起きたのが今、翌日の昼だった。
 別段自分が何かしていたというわけではなく、ただ眠っていただけであったのだが、逆に眠っているだけで翌日の昼になっているというのは奇妙な感じがして、プチ竜宮城を体験した気分だった。この感覚は時差ぼけに近いものがあるのだろう。
 それに手術に対する不安も無く、あまりにも呆気なく終わってしまい拍子抜けしたぐらいだ。私にとっては手術以上に食事ができなかったことが何よりも辛かった。
 まあなんだかんだ言って笑い飛ばすことができるのは手術が成功したからだろう。これで私も一般人の仲間入り。健康とはいわないが、人並みはずれて人並み以下の体ではなくなったわけだ。


「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、暇だ…………」
 ベッドにうつ伏せで潰れながら怪しげなうめき声を上げる藤浪朋子16歳である。
 昼食を食べ終えた私に待っているのは、夕方までの4時間あまりの空白をどう過ごすかという問題だけだ。
 今日から暫くは安静にしてなければならない。そのため長時間動き回るのは論外。ならば病室にいようかとも考えたのだがそれもなんだかもったいない気がする。というのはこの病院にいるのもあと数日。術後の経過を見て全ての検査でオールグリーンとなれば病院ともおさらばになるわけだ。そう考えるとこの長い病院生活を終えるのもなんだか寂しい気がしてくる。
「――それじゃあ散歩といきましょうか」
 勢いをつけてベッドから起き上がると、着替え用の服の中から厚めの上着を取り出した。いくら日中とはいえ季節はクリスマスシーズン、いつ雪が降ってきてもおかしく無い気温となっているはずだ。
 とりあえず靴下を履き、カーディガンを羽織る。しかし何処に行くべきか。一応候補といえば屋上か中庭か、あるいは近くの公園か。そうでないなら体に障らない範囲で院内を巡るぐらいか。
 ……改めて考えてみると私の行動範囲はかなり狭いのではないか。ちょっと反省。
 まあ過ぎたことは仕方が無いだろう。幸か不幸かまだ数日はここに留まっているのだから今日から行動を起こせばいいのだ。


 というわけで中庭にやってきたのだが、案の定この寒空の中を散歩に出かける変わり者はほとんどいなかった。たまに人を見かけるが一人で出歩いているのは私意外にはいないようだ。
「一人、か…………」
 誰に言うでもなく小さく呟く。
 今になって私は自分と他者の繋がりというものを理解したのかもしれない。
 好んで独りになっていた私。一人の個として集団になじまなかった私。
 別にロジカルな感情を持っているわけでもないしシニカルな思考をしているわけではない。
 要するに子供の強がりだったのだ。他者を傷つけたく無いからと拒絶し、本当は自分が一番傷つきたくない臆病者。そんな自分に気付かせてくれたのは私が避けてきた周囲の人たちだった。
「な〜に黄昏てるの?」
「まだそんな時刻じゃないですよ」
 普段ならば背後から突然声を掛けられば、驚きのあまりまことに愉快なリアクションをとるところだったが、長年の経験や場の流れからいってなんとなく出てきそうな雰囲気があったのだ。
「う〜ん、そうやって揚げ足をとられちゃうと困りますね」
 私の反応があまりにも普通すぎたためか、真崎さんは少し拗ねたような口調で私の隣に足を進めた。
「それで、真崎さんはどうしたんですか? わざわざこんなところに出てくるなんて」
「それをいったら朋子ちゃんだって同じでしょう? ちなみに私は朋子ちゃんの様子を見に来たのよ」
 律儀に私の質問に答え会話のキャッチボールを続けようとする真崎さん。
 今日はゆっくりと思い出を振り返ろうと思っていたのだが、新たな思い出を作るのもいいだろう。それに正直なところ病院にいたときの思い出など大したものがあるわけでもない。ほんの数時間あれば語りつくしてしまえるのではないだろうか。
「……私はちょっとした思いでめぐりです。でも真崎さんはこんなところで暇をつぶしてていいんですか?」
 真崎さんがどの程度の地位なのかはよく知らないが、少なくともいなくていい存在では無いだろう。
 しかし真崎さんは上品に微笑んで大丈夫ですと答えた。
「今の私の仕事は朋子ちゃんの様子を見ることですから。だからこうやってサボってるように見えて立派に仕事してるのよ」
 先ほどまでの大人っぽい表情から一転、今度は悪戯をする子供のように楽しそうに笑みを見せた。
「……前から思ってたんですけど、真崎さんって変わってますよね」
 我ながらこの言い方はどうかと思ったのだが、今の私の疑問にぴったりの質問だった。
「上手く言えないんですけど、話し方にしても普段は落ち着いた口調なんですけどたまに砕けた口調になりますし、私のことをからかってはいますけど本当に腹が立つことはしませんし。いかにも儚そうな雰囲気を出しておきながら誰よりも芯が通っているように見えます。
 だからなんていうか、どの真崎さんが素の性格なのかなって……」
 思いつくままに言葉を並べていったため上手い話し方とは言えなかったけれど、私の言いたいことは伝わったらしい。真崎さんはちょっと困ったように空を仰ぎ見るとポツリと呟いた。
「――――昔話は好きかしら?」


 私は真崎さんと近くのベンチに並んで腰掛けていた。ちなみに私の手の中にあるお汁粉は真崎さんが何処からともなく取り出したものだ。
「本当は朋子ちゃんと遊ぶつもりだったんだけどね」
「私と、ですか? 私で、ですか?」
 とがめるような視線を向けるが真崎さんは『私はどっちでも』と難なくいなされてしまう。
「でも後者だったら私は間違いなく逃げますよ? ここは病室じゃないんですから」
「それなら問題ないわよ。そのために貢物を渡したんだから。朋子ちゃんは恩をあだで返したりしないわよね?」
 そう言って真崎さんは私の手の中にあるものを楽しそうに指差す。やっぱりこの人は策士だ。
「私は猫じゃないんですから餌付けされたりしませんよ」
「でも飲んでる間は大人しくしててくれるでしょ?」
 その通りだった。長年の知り合いだけあって私の行動など予測済みということだろう。まあ私もそれを理解したうえで話しているのだけれど。
「それで、改まって何の話ですか?」
「えっと、言葉にするのはちょっと難しいんだけどね、言ってみれば先輩からのアドバイスかしら」
「アドバイス?」
「ええ、朋子ちゃんって見てて危なっかしいから。なんだか見た目にはしっかりしてるように見えるけど意外に土台が不安定なのよね。もう自分を見ているみたいだったから」
「…………そう、ですか? 真崎さんには当てはまりそうに無いですけど」
 その指摘は全て私に当てはまると思うが、どちらかというと真崎さんはその対極に位置する人のように思えるのだが。
「それは朋子ちゃんよりも早く大人になる必要があったからよ」
 悲しげな視線はどこか過去を思い出しているように見える。
「もう何年前になるかしら。私が大学生だった頃にちょっと親と上手くいってなくてね。いろいろあってどうしても看護師にならいといけなかったの。残念ながら看護師を目指した動機は不純なものでね、医者になるのは無理そうだったから仕方なくっていう理由」
「でも医者になろうと思ったことはすごいと思いますけど」
 医者という職業を目指すならばかなりの努力が必要だと思う。どれくらい大変かは推測に過ぎないが、何度も受験を繰り返して医大に入る人たちがいるくらいなのだ。相応の覚悟が必要なはずだ。
「ちょっと違うかな……………医者じゃない私は必要なかったから」
 困ったように力なく笑う真崎さんはなんだか泣きそうに見えた。
「私の家はみんな医者の家系でね、私は世間一般で言うお嬢様だったの」
 似合わないでしょ? と苦笑するが私は納得してしまった。佇まいから何気ない仕草まで、真崎さんからは時折上品な雰囲気が漂うことがはそのためだったのか。
「話の流れで分かると思うけど、そういうわけで私は医者になることが義務付けられていたの。でも私はどう頑張っても医者になれそうになくて、せめて看護師でもって思ったんだけど…………両親はそんなものになる必要は無いって言われてね。代わりにお見合いの写真を渡されたわ」
「それは…………」
「あっ、気にしないで。昔の話だから」
 何か言おうと思い口を開いたのだが真崎さんに先を越されてしまった。こういうところで上手い言葉が出てこないのは私が子供だからだろうか。こういうときには社交性のなさと対人関係の少なさに後悔してしまう。
「その頃の私と朋子ちゃんが似てたのよ。生きる目的が希薄なところとか、誰にも迷惑をかけないようにするところとか」
 言われてみればまさにその通りだった。しかし言葉通りであってもそれが真崎さんの印象と上手く結びつかなかった。
「あまり似てないと思いますけど…………。真崎さんは私と違って強いですから」
「強い? 私が?」
 真崎さんはさも意外そうに驚くものだからこちらのほうが戸惑ってしまう。
「残念ながら私よりも心が強い人なんて片手じゃ足りないほどいるわよ。それも私の周りにね」
 そう答えた真崎さんはなんだか誇らしげで、それでいてとても嬉しそうだった。
「これもさっきの話の続きになるんだけどね、お見合いのことが原因で大学の頃に家を出たの。といっても本当は看護師は諦めようと思ってたんだけど、ある人に出会ってからそれはちょっと違うかなって思い始めてね」
「そのある人って?」
「そうねぇ…………私が一番尊敬する人かな。加えて私が知る中で一番強い人」
「その人ってどんな人なんですか? その、大学生のときに出会ったんですよね?」
「ええ。その人も同じ大学だったの。それも医学部の主席。でも人間としてとてもできた人だったわ。正直この人こそ医者に成るべきだと思ったわ」
 どんな人かはよく分からないが、思い出すだけで真崎さんを笑顔にできる人だということだろう。
「それでその人とどうなったんですか? たとえば恋人になったとか」
「残念でした。なんとその人には子供がいたのでした」
「……………………え?」
「まあ想像じづらいところがあるんだけどね、その人は大学に在学している間に結婚していたの」
 真崎さんの話は私の斜め上をいっていた。大学生といえば私と3歳しか違わないのにその歳で結婚という言葉が出てくるのは良く分からなかった。というより結婚という単語自体うまくイメージできなかった。
「でも光一さん――あ、その人の名前は光一って言うんだけどね、彼は子育てをしながら大学に通ってたの」
「それで主席ですか……よっぽど優秀だったんですね」
「やっぱり朋子ちゃんもそう考えちゃうわよね」
「どういうことですか?」
「確かに成績がよければ優秀ってことじゃないのよ。確かに努力すれば知識は増えるかもしれないけれど、それじゃあ駄目なのよ。
 私も看護学科にいた頃はそのあたりが理解できなくてね、毎日寝不足になるまで勉強していたの。でも光一さんを見ていたらそれが間違いだと気づいたの」
 真崎さんは目を閉じ、そっと胸に手を添えた。
「私とは想いが違ったの」
 そう答えた真崎さんはとても優しく見えた。
「私は仕方なく医者になろうとしてた。逃げてたのよ……。でも光一さんはどうしても医者になりたかった」
「よく、分かりません…………」
 きっとその違いは大きいものなのだろう。しかし私にはそれが理解できなかった。たぶん、それは私が子供だから。
 悔しかった。自分がどれだけ大人ぶっていても、どれだけ意地を張っていても所詮は子供のわがまま程度だったということだ。その意地が周りに迷惑をかけるということさえ知らなかった。
「いいのよ。無理に大人にならなくても。子供はわがままじゃなくっちゃ」
 けれど真崎さんは慈愛に満ちた笑みを浮かべただけだった。まるで母親から娘へ、優しく語り掛けるように言葉を紡ぐ。
「朋子ちゃんなら大丈夫よ。心はね、ゆっくりとしか成長しないから。もどかしいかもしれないけれど無理をする必要なんか無いわ。なんたって私もそうだったから」
「真崎さんも?」
「ええ。私も無理して意地をはって、その意地が続かなくなったら折れそうになって……。でもそんなときに光一さんが教えてくれたの。強い想いには必ず応えてくれるって」
「想いを叶えてくれるわけじゃないんですか?」
「そこがポイントなんですって。何もかも叶うほど優しい世界では無いけれど、自分が優しければそこはきっと暖かくなるって。まるで詩人みたいな言葉だったけれど、彼の周囲はその言葉通り暖かかったわ。
 光一さんが住んでたアパートは小さかったけれどいつも優しさに溢れていたから。そこに住んでいる人たちも同様に。思わず引っ越しちゃうぐらい素敵な場所だったわ」
「でも真崎さんの家って……」
「ええ、もちろん反対されたわよ。そんなアパートに住ませられるかって。というか一人暮らしにも反対されたんだけどね。だから家出しちゃった。」
「そんな可愛くいわれても……」
「全部昔の話だけどね。でも引っ越したのにはちゃんと理由があるのよ」
「聞かせてもらえますか?」
「……彼が過ごした場所にいれば私も強くなれるかなって。もともとね、光一さんは医者になるつもりはなかったそうなのよ。大学に入ったのも最初は法学部でね、弁護士になりたかったそうなのよ」
「何でそんなことを……? せっかく大学に入ったのに……」
 私には光一という人の考えが理解できなかった。わざわざ苦労して大学に入ってのにそれを簡単に諦めるなんて。
「奥さんのため、ですって」
「――――え?」
「光一さんの奥さんは身体が丈夫じゃなかったそうなのよ。病気でね……」
 ――病気。その言葉につい身が固くなってしまう。手術は終わっているのだが、自分のことのように怯えを感じてしまうのは弱さだろうか。
しかし話からすると奥さんの病気を治すために医者を目指したということか。常人ならばただ祈るだけだろう。できるとしても少々の知識を詰め込むだけ。
 けれど光一という男性が取ったのは自らの手で大切な人を救う道。

 ――――それが想いの力。自分の夢を変えてまで努力できる心。

 真崎さんがあそこまで言うくらいだ、その光一という人はよほど素晴らしい人物なのだろう。そしてその光一さんが選んだ女性も。
「その、光一さんの奥さんってどんな人なんですか?」
 ちょっとした好奇心から出た言葉だったが、真崎さんは困ったような顔になってしまった。
「私もそんなに見たことは無いんだけどね……そうね、誰が見ても綺麗だっていう人、かな? 髪がとっても綺麗で腰まであったかしら。優しい目が印象的でね、背も高かったから雰囲気とあわせてまさにお嬢様って言葉がぴったりで、けれどどことなく子供っぽいところもあったみたい。なにより未来さんのことを話す光一さんがとても幸せそうだったわ」
 光一。未来。真崎さんは二人の名前を出すたびにとても楽しそうな笑顔を見せる。
 まるで無邪気な子供が大切な宝物を見せるような、なんの衒いもなく自然に浮かんでくるその笑顔が――――

 ――――私には眩しかった。

 真崎さんは彼らのことを深く理解し合っているのだろう。親友と呼んでも差支えが無いほどに。そして同時に彼らを誇ることができる。
しかし私には友人と呼べる人物がいない。素直に尊敬できる人もいない。
 少なくとも感謝している人はいるがあくまで一方通行の繋がりでは無いだろうか。彼らのことをどこまで知っているのかと聞かれたら、私は閉口してしまうだろう。
 私は自分の不甲斐なさが悔しくて、それ以上に真崎さんが羨ましかった。
 自分の弱さを自覚して、それを自分の力で克服した。
 私もその強さをいつか手に入れることができるだろうか。そう思ったら自然に口が動いていた。
「あの……その人たちは今どうしているんですか?」
「…………どうしてそんなことを?」
「いえ、できたら会ってみたいなって……。弱い自分は嫌いだから…………」
 明確な理由はなかった。ただ真崎さんみたいに、その人たちみたいに強くなりたかったから。すこしでも近づければとすがったのかもしれない。けれど真崎さんはうって変わって弱々しく微笑むだけだった。
「光一さんはともかく、未来さんは無理かな……。今は遠いところにいるし。それに実を言うと私も会ったことないのよね……」
「それって……」
 どういうことか、と聞きながらなんとなく予感がしていた。それも悪いほうの。当然私の悪い予感が外れるわけもなく。
「そういうこと。未来さんはもう無くなっているのよ。それもかなり前にね」
「……………………」
 大切な人が死ぬ。それはいったいどういうものなのか、私にはどうもにも想像しづらい部分がある。普段から病気なのは私、心配するのは周りという構図が自然とできているため、私自身が残される側というのは良く分からないのだ。
 それでも大切な人と会えなくなるというのはなんとなく理解できる。

 お兄ちゃん会えなくなったあの頃――――
 上倉先生と会えない時間――――

 どれくらいの長さであっても会えない時間には寂しさが積もっていく。
「真崎さんは……寂しく、無いんですか? その、光一さんと、会えなくて……」
 恐るおそるという口調で問いかけたが、真崎さんはその問いには答えずゆっくりと立ち上がった。
「朋子ちゃんに1つ質問。心が強いってどういうことだと思う?」
 突然の質問に少々驚いたが、それでもゆっくりとその言葉の意味を反芻する。単純なようで深い意味があるように思われる。
「…………揺るがない自分と信念を確立した人ですか?」
 私が尊敬する人の背中を思い浮かべたところ、自然とそういう言葉が浮かんできた。もっとも、その言葉が正しいとは限らない。あくまで私の目に写った彼の姿だし、そのスタンスをすんなりと言葉で表すことができれば強くなりたいと悩むことも無いだろう。
「そっか……朋子ちゃんはそう思うんだ」
 しかし真崎さんは私の言葉を肯定せず、まして否定することもなく何かを考える顔つきになっている。
「えっと、一応言っておくと答えなんて無いから気にしないで。もともとこんな禅問答みたいな質問は自分に対する考え方を認識するだけだから」
 そう言うと視線を空へと移した。ぼんやりと宙を見上げる真崎さんはいつもと違って見えた。もっとも今日の真崎さんは普段私に見せる顔と違う部分が多々あり戸惑っているのだが。
「私もね、いったい何が強いのか未だに理解できなくてね……。ちなみに今の私の答えは『倒れても、もう一度歩き出せる人』かな」
「倒れるのに強いんですか?」
 何処となく矛盾しているのではないか。どこかそんな気がして出た言葉だったが、真崎さんは静かに頷いた。
「ええ。私はね、人というのは感情が動くものだと思っているの。嬉しかったら笑い、楽しかったらはしゃぎ、悔しかったら拳を握り、寂しかったら震え、悲しかったら涙を流す。そういうものだと思っているわ。だからもし、どうしても耐え切れない出来事があったときはめいいっぱい沈んでもそれは仕方が無いことじゃないのかな?」
 どうしても耐え切れない出来事――それは未来さんの死ということだろうか。真崎さんが尊敬する人というのは光一さんということだから恐らくは。
「逆に辛いことがあっても悲しまないのは冷たいんじゃないかな。本当に必要なのは逃げないこと。一人でふさぎこまないこと。
確かに大事な人を亡くすのは我慢できることでは無いけれど、彼の周囲には優しさが溢れていたから。と言ってもそれは彼の人望があったからだけれど」
 一人でふさぎこまない、か。耳に痛い言葉だ。私は一人で悩んで、突っ走って、盛大に転んでしまうだろう。そういう性格だ。自覚していてもそれが治ることは暫くは無いと思う。
「憧れますね、そういう真っ直ぐな生き方。私には出来そうもありません」
「そうね……。私もできないから憧れて、少しでも一緒にいたいと思ったわ」
 私もその気持ちは良く分かる。胸に渦巻くさまざまな感情。言葉にすることはできずとも望むのはただ1つ。共にいたいと。
 しかし私は手放した。自らが傷つくことを恐れて。
 一番ではないけれど、一番にはなれないけれどそれでも一緒にいたいのか。夕暮れの個室で一人悩み、勝手に決断を下してしまった私はきっと今でも悩んでいるのだろう。
「でもね、私は少し勘違いしていたみたいでね。近くにいるだけでは何にも変われなかった。確かにそこは居心地のいい場所だったけれど、何より暖かい人たちだったけれど……本当に大切なのはそこで何をするのかよ」
「何を、するのか…………」
 あのとき私は何もしなかった。何もせずに逃げてしまった。
 そして何より後悔したのは、当時も自分がそれが最良の選択だと信じ込んでいたことだ。逃げることを肯定した自分が許せない。
「そんなに過去の自分を責めるのはどうかと思うわよ。それに後悔せずに生きるなんて無理なんだからもうちょっと力を抜いてもいいんじゃないかしら?」
 確かにその通りなのだとおもう。しかし頭で理解していても感情が許せるかどうかは別だ。今までも深く考えなかったが――いや、深く考えるほどの余裕がなかったから別段何も思わなかった。しかしその心配が消えた今は意識の隅に追いやられていた感情が駆け巡っている。
「そうできればいいんですけどね…………」
 自嘲気味な笑みを零しながら真崎さんと同じように空を仰いだ。そんな私を真崎さんは苦笑しながら覗き込んだ。
「大丈夫、朋子ちゃんは幸せになれるわよ。可愛い女の子に不孝は似合わないからね」
「ヒロイズムに憧れる気持ちは無いんですけどね…………でも真崎さんがそういうのなら信じてみてもいいですけど」
小さく溜息をつくと同時に、何処からか真崎さんを呼ぶ声が聞こえてくる。
「あら、ちょっと時間をオーバーしちゃったみたいね」
 なんとも無いようにそういうが、結構ピンチでは無いだろうか。遠くからこっちに向かってくる医者は結構急いでいるように見える。
「それじゃあ私はそろそろ行くわね」
 真崎さんは軽く挨拶をし医者のほうへ歩き出そうとする。
「――あの」
 踵を返したその背中を呼び止める。
 尋ねたいのは1つ。先ほどの会話の中でどうしても気になっていたことだ。
「真崎さんは、私が似ているといいましたよね? それじゃあ真崎さんは……幸せになれたんですか?」
「……決まってるでしょ。ヒロインにはハッピーエンドがつき物だって」
 そういうと真崎さんはこちらに駆け寄ってきた医者の腕をしっかりと抱きとめた。抱きつかれた当人は少しはなれていても分かるほどに慌てていた。真崎さんはそんな医者の会を楽しそうに眺めていた。
 あの医者には見覚えがある、というか私を見ていてくれる担当の先生だった。かなりの腕を持っている人らしい。忙しいらしく最近はあまり姿を見ていないが名前は覚えている。
確か名前は中里――
 ――そういうことか、とやっと納得した。要するに盛大なのろけ話だ。無論それだけではないが言いたいことは確かに伝わった。
 私は幸せそうに歩く二人の姿を見送りながら、いつか私も聞くほうが嫌になるほど幸せな生活を聞かせてやろうと思った。





 ご無沙汰です。
 今回はまあまあのペースで更新できたのではないでしょうか? まあその分質はどうなんでしょうね〜w

 なんか気付けば既に20話目。だらだら続いているという感じでしょうか、できればもうちょっとしめれればいいんでしょうかそれは修行中の身。がんばります。

 んで最近の話。
 PCゲームは『suger+supice!』をプレイ中。なんかいいね〜。絵はそれほど惹かれるものではないんですけど、このメーカーはシナリオがいい!! あとキャラがすんごいたってる。自分もこのくらいキャラが魅力的に書ければな…………↓

 ラノベは悪魔のミカタ。上手く言えないけどこの人のプロットはどうなってるんだというくらいの伏線の濃さ。しかもストーリーがまたいいのよ、これが。しかも速筆(←これ大事)なんで遅筆な自分には羨ましいです。

 とにかく上の二つはお勧めです。お金に余裕があればぜひご検討を☆


 あと心の師匠(未承認)である194さんと、大先輩(自称)のマクさん
が主催するCANVASのコンペに参加するつもりです。この機会に皆さんもぜひ♪









テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  [ 藤浪朋子 SS ]   # 41  <固定リンク>

それはすぐ傍に(19)
                          (19)

 朝食を食べた後の時間は各種の検査をしていた。そのためいくつかの部屋を回らなければいけなかったのだが、何故だかたらいまわしにされた気分がする。実際にはそんなことは無いのだが、体調は悪くないと自覚しており、実際にどの検査でも異常なし。そのため3つほど終わらせた時点でもうしなくてもいいのにと思っていた。
 まあどれも私のためにしてくれていることなのだけれど、ちょっと過保護すぎやしないかと思ってしまう。私は何処のお嬢様だと心の中で突っ込みをいれたのは一度や二度ではない。
 そんなわけで精神的に疲弊した私は、部屋に戻ると同時にベッドに倒れこんでしまった。その後昼食を食べ終え数時間経過したにも関わらず、相変わらずベッドで倒れている藤浪朋子であった。

 なんて今の状況を客観的に捉えてみても事態が好転するわけでもない。まあ私が何をしているかというと、ベッドの上で唸りながらうつ伏せに倒れているわけです。加えて言うなら布団は跳ね除けられベッドの端でぐちゃぐちゃに丸められ、今にも床に落ちそうなところを必死で堪えている状態である。いつも身につけているパジャマだって掛かっているボタンのほうが少なく、ズボンのほうもちょっとずり下がり上下の隙間から覗くお腹が、臆面も無く姿を現している。まるで行き倒れのように手足を投げ出したその姿は全国の青少年が抱く『女の子』の幻想を呆気なく破壊するには十分だろう。
 普段ならば他人にこんな姿を見せることなど無いが、今部屋の中に居るのはつぶらな瞳で見つめるぬいぐるみぐらいだ。もっとも本当にいつも通りならば一人であろうとこんな姿はしていないと思う。まあ『そんなこと』を気にするほどの気力も無いということだ。
 理由はまあ、朝のうちも考えていたことだ。私は上倉先生に対してどんな対応をすればいいかということだ。学校でならある程度の話題がある。というかもともと話題を考えるほどの時間を過ごしているわけではない。休み時間にちょっと会ったり、学校帰りにたまたま出くわしたり、つまりは会うこと自体が目的ではないためそんなことを考えなくてもいいからだ。それに私はいつも皮肉を交えてあしらっているだけだったからだ。まあたまに熱くなったりはしたが。
 しかし今日は違う。私に会うために――――私と会話することを目的としてここにくるのだ。(今日来てくれるかどうかは分からないが、というより来てくれるかどうか分からないが来ることを前提として考えなければ話が進まない。ちなみにこの考えにいたるまでに午前中を使ってしまったが)
 にも関わらず残念ではあるが、私には対人関係における有効かつ友好で意義のある会話をすることに関して、壊滅的とは言わないが全世界で統計を取れば平均以下のコミュニケーション能力を有しているといっても過言では無いだろう。ぶっちゃけた話人と会話することが苦手なのだ。
 まあ私が辿ってきた10年弱の時間を考えれば自業自得というものだが。結局どうしようもなくて途方に暮れていたというわけだ。
 一応努力をしたが何の成果も挙げられず、気分転換に小説を読もうと思ったが数行読んだだけで読む気をなくした。なんと言うか小説を読みたい気分というのは波のようなもので、無性に読みたいときとそうでないときの差が激しいのだ。ちなみに今は後者だ。
 けれどライトノベルの記述に何か参考になるものがあるのではないかという考えに気付き学園物をあさってみたものの、数冊に目を通した時点でこんなラブコメじみた展開を演じる自信が持てなくなった。というか非日常を体験するためのライトノベルを日常に持ってくること自体がおかしいのだ。

 こんなことを繰り返し力尽きた私は無気力のままベッドで倒れていることしかできなかった。


 ベッドに倒れこんでいた体勢で夢の世界の住人となっていた私は、ドアがノックされる味気ない目覚まし時計により目を覚ました。
「は〜〜〜い」
 間延びした返事と共に身体を起こす。まだ半分眠ったままだがさすがにこの状況で来客者と会うのはどうか、という思考が働いた。
 気だるそうに視線を入り口に向けるのと外から声が掛かるのは同時。
「藤浪、起きてるか? 俺だけど――――っと、撫子学園の――」
 その台詞を最後まで聞く必要は無かった。寝ぼけて止まっていた思考回路が唐突に働き始める。この声、俺という一人称、そして撫子学園というキーワード。これだけのヒントが出ていれば分からないほうがどうかしている。ちなみにこの解答に辿り着くまで僅かにコンマ5秒。
「ぅえっ!? せせせ先生!? ……ど、どうして――――って理由ならさっき思いついたじゃない……違う違う、そうじゃなくて、あっ、ちょっと待って、か、髪まとめないと……ああっ!! なんか服もぐちゃぐちゃだし…………」
 意識がはっきりとしてくるに連れ、今の状況がとんでもないことに気付きパニックになる。
 突然現れた先生に混乱し、理由を考えるために自分の世界に入ろうとした思考を押し止め、その前にノックに対する返事をしていないことを思い出す。
 部屋に招こうとしたところで寝癖で髪が乱れていることに気付き、サイドテーブルから鏡を取り出したところで上のボタンが1つしか掛かっておらず、下はややずり落ち気味というとんでもない格好であることを自覚した。
「…………………………入っていいのか?」
「ちょっと待って!!」
 魂の叫びはナースセンターまで楽に届いたそうだ。


「…………どうぞ」
 結局ベッドメイクから小物の整理まで、およそ10分ほどかかってしまった。
「い、いらっしゃい……せ、せんせ…………」
 見舞いに来てくれた相手にいらっしゃいという言葉が適切かどうかは分からないが、残念ながら藤浪朋子の頭には他の挨拶が記録されていないためそれ以外の言い方が思いつかなかった。もっともこの状態ですんなり出てくるかは別として。
「おう、というか何をやってたんだよ。部屋の中から暴れるような音が聞こえたんだが。それにさっきも看護師さんがすごい勢いでやってきたんだけどな、俺の顔と病室を見比べると変な感じで笑って『ごゆっくり』とか言うし……ん? どうした、藤浪?」
 その台詞だけで誰の言葉か理解できてしまう辺り真崎さんの個性では無いだろうか。
 私は頭を抑えながら重々しい溜息をついた。あの人に情報が伝わったならあること無いこと――いや、無いこと無いことばら撒かれるに違いない。あの人はにっこり笑ってざっくりと人の傷口を抉る人だ。
「ふ〜ん、なかなか良い部屋じゃないか、って病室で言う台詞じゃなかったかな」
 先生はずーんと重い影を背負っている私をよそに、部屋の中を見渡すと感慨深そうに頷いた。
「そ、そんなことないと思うけど……私も気に入ってるし……」
 ちょっとローテンションながらも何とか返事を返す。
 しかし良いのか悪いのか、変に落ち込んだおかげで先ほどまでの極度の緊張状態はかなり緩和されていた。真崎さんがこうなることを見越していたかどうかは定かでは無いが、一応感謝しておこう。
「なんたって個室だからな。他人に気兼ねしなくていいのは、藤浪にはありがたいだろう」
「うん……それに長く入院するときはいつもこの部屋だから…………」
 確かに個室でなければこうも落ち着くことはできなかっただろう。昔の私は他人との関わりを過度に拒否していたし、今は他人とどう関わればいいか分からない。そんな私にとってみればこの部屋は逃げ込めるもうひとつの場所。言ってみれば自分の部屋と同義であった。
 私がこの部屋意外に滞在したといえば北海道の病院に療養したときぐらいだろうか。
 北海道に行ったところで病気がどうにかなるわけではないが、私の心は確かに救われた。一時の出会いであったかもしれないが、そして私はついでに救われただけかもしれないがあの病室で出会えたことは私にとって重要な意味を持っていた。
 そんなとき1つの疑問が頭をよぎった。


――――ならばこの上倉浩樹はどのような理由でここに来たのか――――


 私のためなのか、それともまたついでなのか。

 一度考え始めるともう駄目だった。そのことが頭の中をぐるぐると回っている。
「…………ねぇ」
 つい堪えきれずぽつりと呟いてしまった。
「……今日は、どうして来たの?」
「どうしてっていわれてもな…………来たら悪かったか?」
 私の質問に上倉先生は困ったように頭をかいた。
 今のは質問の仕方が悪かった。私は慌てて否定するともう一度質問の仕方を考えた。
「まだ……授業が終わってから、そんなに時間がたってないのに……」
 私がそう言い直すと、上倉先生は苦笑し――
「そんなの、藤浪に会いに来たに決まってるだろ」
 さわやかにそう言い切った。
 ――――――この人は今とんでもないことをさらりと言わなかっただろうか。
 私に会いに来たって、それはつまり、そういうことでいいのだろうか。いやいやそれは早計ってものではないだろうか。単に教師が生徒の見舞いに来たというだけの話かもしれない。けれどまだ授業が終わってから数十分ということと学校から病院までの移動時間を考えると授業が終わってからすぐ出たことになら無いだろうか。上倉先生は美術部の顧問でもあるわけだから部活を休んでまで会いにきてくれたということは事実ではある。そういうことを考えるとこれは少しぐらい期待してもいいのでは無いだろうか。できれば少しを通り越して結構な希望的観測を持っても良いのではないのかと思うわけで――――
「急に容態が変化することは無いとは言われたけどな、自分が運んだ患者を気にするのは当然だ」
 …………………………………………………………………………え?
 危ない危ない、思わず間抜けな声を出してしまいそうでした。それではもう一度今の言葉を反芻してみましょう。

 自分が運んだ患者の容態を気にするのは当然だ。ええ、至極当然の考え方ですね。
「そっか……そうだよね…………」
 それはもう私のことを思うとか、教師が生徒を思うとか、それ以前の問題でしたね〜。私だってそれぐらいのことは考えますよ。要するに単なる責任感。例えば自分が出会った迷子は母親と出会えただろうかと気にしたり、あるいは自分の送った荷物が相手に届いているか気にするようなものである。
 私は落胆した気持ちができるだけ顔に出ないよう深く息を吐いた。いや、別にそんなに期待はしてなかったからいいのだけれど。うん、そうだ。私は別に期待していなかった。そのはずだ。
 …………何故私がこんな言い訳のようなことを考えなければならないのか。
 どれもこれもこの男のせいではないか。こいつが紛らわしいことを言わなければ変に期待――じゃなくて動揺せずにすんだのに。
(…………狙ってないわよね)
 横目で上倉先生の様子を確認してみるが、特に変わった様子も無く私の顔を見て『どうかしたか?』と聞いてくるぐらいだ。
 まあこの人は女性を簡単に引き寄せておきながら何の自覚も無い唐変木だから仕方が無いか。ったく、変に気を張って損をした。余計なことを考えずに普段どおりに接すればいい。
「それでどうなんだ? 見た感じでは大丈夫そうだが」
「大丈夫よ、今日の検査でも問題なかったしね」
 先ほどまでの気分を払拭するかのように手をひらひらと振る。
 体調はいいのだが、校もベッドに縛り付けられると逆に悪くなってしまいそうだ。
「だから明日手術することになったの」
 ついでに今思い出したとばかりに手術の予定を伝えておく。まああれだ、私のところに来る客人なんて先生ぐらいしか思いつかないため、先生が来ないと暇で仕方が無いから。
「明日〜? いくらなんでも早すぎやしないか?」
「入院したのは昨日じゃないか。そんな急で、体調の管理とか準備だとかだな……」
「何のための検査だと思ってるわけ? 検査して大丈夫だってことになったから手術するんじゃない。それに手術の準備も私の気が変わったらすぐにできるようにって前々から用意してたんだって」
 正直この点に関しては感謝しても足りないほどだ。いつ手術を受けるか分からない患者のために常に準備をしておくなど常識では考えられない。もし私が看護師の立場だったらとっくに愛想をつかしているだろう。
 ――――本当にここの人たちは人が良すぎる。
「それだけみんなが藤浪を大切に思ってるってことだよ……ありきたりだけどな」
「…………そうなんでしょうね」
 確かにどこかで聞くような安っぽい台詞。けれどもその想いの価値を計ることなどできない。心に余裕ができた今ならその重さを感じられる。私はこの10年あまりの間、他人に助けられてばかりだった。私がどれだけ突き放しても彼らは決して見捨てはしなかった。私がどれだけ迷惑をかけても彼女らは決して諦めたりはしなかった。
 それは一生掛かっても返すことのできない大きな借りだ。
「素直になったな、藤浪」
 素直、か。今までも意地を張っているつもりは無かった。ただ誰も傷つけたくなかっただけだ。けれど結局のところ自分が傷つきたくなかっただけなのかもしれない。
「先生の……おかげ、かな……」
 無理をして自分が傷つくぐらいならそんなことなどする必要など無い。それを教えてくれたのがこの人だった。
「俺は何もして無いっての。――いや、気絶した藤浪を運んでやったか? ならその恩はいずれ返してもらうとするか」
「うん……絶対に、返すから…………」
 この病院の人たちが私に望むのは生きて欲しいということだけだろう。ならば私はそれに答えたい。
 そして上倉先生には、私の一生をかけて恩返しをしたい。私の貰った以上の想いを伝えたい。ずっと、一緒にいたい。
「だから……だから、待ってて……」
 自分でも変なことを言っていると思う。いきなり待っていてと言われても何のことか分かるはずも無い。分かったとしてもそんなことは上倉先生の自由だ。でも言わずに入られなかった。
 案の定上倉先生は戸惑った表情を浮かべていたが、それでも頷いてくれた。もっとも勢いに飲まれたところもあるだろうけれど。


「それじゃあそろそろ帰るとするか」
 そろそろ6時になろうとする頃、上倉先生は時計を見上げながらそう呟いた。
 本当はまだいて欲しかったが、先生の家には帰りを待っている人物がいる。引き止めればきっと彼女の名前が出てくるだろう。先生の口からその名前を聞きたくはなかった。
「手術は何時からなんだ?」
「えっとぉ……お昼の12時って言ってたかな。残念だったわね〜、あんたは仕事で来られないでしょ」
 実際のところ授業が無くても面会謝絶のため会うことなどできないのだが。それでも着て欲しいという気持ちが無いわけではない。
「…………確かにな。まあその代わりといっちゃあなんだが明後日には来てやるよ」
 今の数秒の間は考えてみてくれたのだろいうか。
 授業と私の事を天秤にかけることなど無意味に違いないが、それでも悩んでくれるということは、上倉先生にとって悩むだけの価値があると――私がそれだけの価値を持っていると思っていいのだろうか。
 私は緩みそうな頬を布団で隠し、なんとか平静を取り繕った。
「明後日には特別授業があるが、講師の接待で俺にお呼びが掛かるとは思えないしな」
「特別授業? それって何?」
「美術の授業の一環でプロの画家を講師に招いて特別に指導してもらうんだよ」
 ――――プロの画家か。お兄ちゃんはもうプロとして活躍しているのだろう。
 名前は覚えていないがその絵を見ればきっと気付くだろう。
 お兄ちゃんの絵は私の心そのものだから。私という人格を形成する根源といっても過言ではない。生かされていた幼い頃の私に人間らしさを与えてくれたあの人の絵だから。
「その特別授業って誰が来るの?」
「それが俺も教えてもらって無いんだよ。理事長が言うからには有名な人らしいけどな。でも藤浪が気にするなんて珍しいな。特別授業は3年生だから関係ないぞ?」
「別にそういうわけじゃないけど…………」
 正直その授業自体に興味があるわけではない。ただお兄ちゃんだったらいいと思っただけだ。しかしよく考えてみれば先生の前でお兄ちゃんのことを話すのはいかがなものだろうか。仮に上倉先生が私の前で他の女の話を楽しそうに話したとしたらどうだろう。しく無くとも私は気を悪くするだろう。確実に断言できる。ならば上倉先生の前でお兄ちゃんの話題を出すべきでは無いだろう。
「まあちょっと気になっただけよ。どんなオヤジが来るかしら無いけど、どーたらこーたら絵の事を聞かされて何が嬉しいわけ?」
「絵に興味が無ければそうかもな。けど少しでも生徒の刺激になるならそれでいいんだよ」
「……そういう先生は随分と楽しみにしてるみたいね」
 この話題になってから言葉に随分と熱がこもっている。それに絵のことを語る先生はいつも子供のように眼を輝かせている。
「そ、そうか? まあ楽しみには違いないけどな。俺も真面目な美術教師だからな。プロの意見を聞くことで新しい考えも生まれるかもしれないだろ?」
 恥ずかしそうにそう頬をかく姿は本当に子供みたいだった。私も笑いながら相槌を打った。
 その言葉は本当に何気なく返しただけだった。ほんのちょっと気になっていただけで、明日の天気はどうか、というのと大して変わらない気軽さだった。

「はぁ〜? なにが真面目よ。自分で絵も描かない美術教師を真面目とは言わないわよ。もしかして絵をかけないんじゃないの?」

 けれど上倉先生の変化は顕著だった。
 先ほどまでの恥ずかしそうな顔は一変して、明らかに動揺していた。顔色も心なしか悪いように見える。
 室内には重苦しい空気が漂っていた。
「……先生?」
「っ――――ど、どうした?」
 恐るおそる声を掛けると、先生は我に帰ったように私の顔を見た。けれどその視線は私のあごの辺りに向けられ目を合わせようとはしなかった。
「どうしたって……まあ、別になんでもないんだけどね…………」
 誰の眼から見ても上倉先生の様子は変だった。けれどおそらく上倉先生はその話題に触れて欲しいとは思わないだろう。そして私は聞いていいほど先生の近くにいるわけではない。
「……そうか。それじゃあ俺は帰るな。また、明後日に来るから」
 何とか造ったような笑顔でそういい残し先生は病室を後にした。
「あ〜、参ったな……」
 ベッドに音を立てて倒れ、一人になった病室で誰に向けるわけでもなく呟いた。
 上倉先生が絵を描かないことは知っている。竹内先輩も何度かそのようなことを言っていた。そのたびに気分が乗らないと言っていることも。
 けれどそれが『描けない』ということなら話が違ってくる。
(傷、抉り取ったよね……)
 きっと深い理由がある話だろう。あんな軽率に言っていい話題ではないはずだ。本当に自分の迂闊さには嫌気がさす。
 寝転んだままベッドの横にあるサイドテーブルに目を向ける。
 中にあるのは撫子学園のパンフレット。その中にはあの絵が載せられている。
 私は上倉先生が描いたのではないかと思っていたのだが、あの様子では違うのかもしれない。しかし竹内先輩もあれが上倉先生の絵だろうといっていた。美術部、それも撫子学園の部長がそういうのだから間違いないのだろう。
 本当は今日聞いてみるつもりだった。しかしあの様子では聞くことなどできそうに無い。もし聞いたとしても応えてくれないだろう。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜」
 我ながらなんとも気の抜けた声を上げるものだ。しかしそうでもしないとやってられなかった。
 この日、私はずっと後悔の念に攻め立てられ続けていた





 あ〜筆が進まんのです。
 実際(18)をアップした翌日には8割方できていたんですが、まああれです。構想はできてるのに言葉に直せなかったということです。未熟の一言で済ませてやってください。

 そうそう、マクさんと194さんのところでCANVASの企画をやるようなので参加させていただこうかな、と。まだ話は通していませんが描く内容が固まったら――――っと、書いてる途中でネタができたんで参加させていただこうと思います。コメディーです。今から連絡しますね〜☆


 んで「それはすぐ傍に」のほうは内容を少し変えさせてもらおうかと。実際は退院してからすぐクリスマスだったけどもうチョイ時期を延ばそうかなと。そうしないと上手く内容が繋がらないんで。というわけで乞うご期待!! してください。いやほんとお願いします。応援してください。(⊃Д`。)゜







テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

▲ 上へ

09←  2007年10月  →11
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
←バナーです。ご自由にお持ち帰り下さい。というかぜひリンクを。 相リン希望者はぜひご一報を

最新記事

最新コメント

最新トラックバック


無料カウンター

プロフィール

tiro

管理人: tiro

            

リンク

ホームページ アフィリエイト レンタルサーバー
FC2ブログ 専門学校