隠れオタでもいいじゃないか

主にPCゲームの二次創作を書かせていただいています。  あとは最近やっているゲームやら読んでいるラノベやらのこととか……。

「それは舞い散る桜のように完全版」2008年10月30日発売

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ちょっと休憩……
 ついに学校が始まってしまいました……。
 憂鬱とばかりは言ってられませんが、そんでもあまり時間が取れない状況です。

 あとついでに一次創作も書いてまして。まあとあるところの応募作品なんすけどね。去年も一応送ったけど、まあ今見直すとひどいもんでしたwww

 実際このブログも小説の練習用に作ったもんですし、いよいよ応募ってわけです。まあこの時期にまだ書いてる(てか書き始め?)こと自体でどこに応募するのかわかるもんですけど。とにかくどんな結果になろうともできるだけいいものを書きたいもんです。


 てな訳で、ちょいと更新が遅くなるかもです。一応次はドラゴンSSです。かなり時間開いたけどね↓


 ついでに今日は学校からの更新でした☆

  [ リトルバスターズSS ]   # 70  <固定リンク>

リトルバスターズ 二木佳奈多SS 〜改正版・おまじない全書〜
 いたって普通の放課後。衣替えは終わったけれどまだまだ夏の残滓が残る季節。
 いつもなら授業の終わった後は何か遊びを考えるのだけれど、恭介に用事があるとのことで今日は特に予定はなかった。
 鈴と小毬さんは中庭に猫の様子を見に行っている。真人と謙吾はまた何か勝負をするらしい。来ヶ谷さんは気付いたらいなかった。クドは部活の関係で何かあるらしかった。
 そんなわけで僕は同じく何の用事も無い西園さんと雑談をしていた。
「ところでそれ、何の本なの?」
 小説の話になって(西園さんが饒舌になりすぎたので)今西園さんが読んでいる本の話となった。
 短歌の本でもなく小説でもないということだ。ならば一体何の本だということで尋ねてみた。
「これはおまじないの本です」
「おまじない?」
 今までとは随分と毛色の違う本だった。
「直枝さん、今この本を軽んじましたね?」
「そ、そんなことはないけど……」
 しまった、顔に出ていただろうか。西園さんは本のことになるとちょっと性格が変わるからなあ。しかも自分のオススメの本だとさらにその傾向が強いし。
「この本はとても効果のある本なのですよ。以前に出ていたおまじないの本に新たなおまじないを付け加えた改正版です」
「おまじないの改正って……そんなに人気があるの?」
「それほどメジャーなものではないのですが、その効果は確かなものです。むしろ強力すぎてあまり出回ってはいないものです。私も長い間捜し求めて、つい先日ようやく手に入れたのです」
「そうなんだ」
 そんなに欲しかったものをあっさりと流されれば不機嫌になるのもあたりまえだ。ちょっと軽率だったかもしれない。
「それってどんなおまじないがあるの?」
「そうですね……例えば自分のことを好きな相手が分かるおまじないというのが有名でしょうか」
「それっておまじないなの……?」
「他には教室で隣に座っている子と両想いになれるおまじないや、自分のことを好きにさせるおまじないもありますよ」
 既におまじないじゃなくて呪いの類じゃないかと思う。
「あとは元気の出るおまじないと……」
「あ、それはおまじないっぽいね」
「閉ざされた体育倉庫で二人きり。果たして二人は無事脱出できるかというものがあります」
 それ具体的過ぎない? ていうかそもそも完全に呪いだよね……
「……直枝さん、信じていませんね?」
 ムッとした表情で口を尖らせる。若干トーンダウンしているあたり、不機嫌になっていること間違いなしだった。
「それなら実際に試してみてください。身をもって体験すれば信じられるはずです」
「え……別に疑っているわけじゃ……」
「ならなおさら体験してみてください。取って置きのおまじないですからやってみて損はありませんよ」
「……それなら試してみようかな」
 怪しげな自称おまじないよりも。むしろ断った後の西園さんのほうが怖そうだった。

 リトルバスターズ 二木佳奈多SS 〜改正版・おまじない全書〜

「ではサイコロを五つ用意してください。そして左手を胸に当て『ソノグウゼンヲチャンスニ』と三回唱えてサイコロを転がし、全て一の目を出せば成功です」
「ふんふん、全部一ね……って無理じゃない!? ていうかそもそもサイコロ持ってないし……」
「いや、心配には及ばないぞ」
「恭介!?」
 いつの間にか隣には恭介が座っていた。クラスメイトもいつものことかと取り立てて騒ぐこともなく、むしろ居て当たり前みたいになっている。
「恭介、用事は?」
「まだ途中だ。まあそのついでにここによったんだが、どうやら理樹と西園が困っているみたいだったからな。ちょっとばかり手伝ってやろうと思っただけさ」
 そう言ってポケットから取り出したのはサイコロだった。
「これが必要なんだろう? ま、心置きなく使ってくれ」
 そのまま席を立ち教室から出て行ってしまった。
「本当に仲がいいのですね」
「西園さんもその一員だよ」
「……そうですね」
 薄っすらと笑みを浮かべる西園さん。近頃こういう表情を見せることが多くなってきた気がする。クラスのみんなとも少しずつ打ち解けてきたようだし。
「でもサイコロをもらっても成功しないと思うけどな。確率って六の五乗だから……どのくらいの確率なの……?」
 無理な確率じゃないけれど、それでも実現には程遠い。
 まあ一応左手を当てておまじないの言葉を繰り返す。そして恭介から受け取った妙に詰まった感じのするサイコロを適当に転がしてみる。
 最初の目は一。次の目は一。次もその次も一。そして最後の目は……これも一だ。
「うそ……」
 一回で出来てしまった。
「なんかおまじないなんかよりもこっちの方がすごいんだけど」
「そうでもありません」
「え?」
 西園さんもサイコロを手に取り無造作に転がす。信じられないことにその目も全て一だった。
「こんなことあるの!? えっと、六の十乗ってことは……」
「そんなに驚くものではありませんよ?」
 再び転がすとまたもや全て一。
「これって……」
 さすがにこれはおかしいだろう。改めてサイコロを調べてみると、やっぱりすこし重い気がする。それになんか違和感がある。
「直枝さんの想像の通りかと。どうやらこれはイカサマダイスのようですね」
 重心を変えてあるサイコロで、特定の目だけを出やすくしてあるサイコロ。つまりこの場合は一が出やすいんだろう。
「恭介ってばなんでこんなもの持ってるんだろう……」
「さあ……」
 絶対ろくでもないことに使うんだろうなあ。
「それはともかく、直枝さん。おまじないは成功しましたよ?」
「あ、そうか……」
 納得できない部分もあるけれど、とりあえずは成功なんだ。
「でもこれって何のおまじないなの?」
「それは秘密です」
「秘密って……」
「そちらのほうが面白……いえ、そうしなければおまじないの意味がなくなってしまいますので……」
 ……絶対うそだ。今そっちのほうが面白いって言いかけたよね……?
「とにかく廊下を歩いてみてください。きっと……いえ、絶対に。確実にいいことが起こるはずです」
「まあ……そこまで言うんなら」
 おまじないがうそならそれでいいし、もし本当でも西園さんが進めるおまじないだからそれほど悪い結果にならないだろう。そう思い席を立った。

「廊下って言われたけど、そもそもどこまで歩けばいいんだろう……」
 とりあえず下から順に回ったのだけど特に何もなかった。もしかして特定の階じゃないといけないのかもしれない。
「一回戻ってみようかな」
 下の階に降りようと廊下を進み階段を下りる。
 僕が考え事をしていたせいだろうか。下の階から上がってきた生徒とぶつかってしまった。
「あっ――」
 どっちの声だったのだろうか。やけにスローに感じられる世界の中、僕は反射的に伸ばされた手を掴んでいた。 
 引っ張る力が強かったのか、もしかしたらこれが火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。なんにせよ奇跡的にその人をこちら側に引っ張りこむことには成功した。
「――っ」
 二人分の衝撃が肺から酸素を押し出した。
 思わず咳き込む僕の様子を心配してか、頭上から戸惑うような声がかかった。
「その……申し訳ありません。大丈夫、です――」
「い、いえ……こちらこそ前見てなくてすいませんで――」
 目の前に顔があった。
 それも見知った顔だった。
 意志の強そうなはっきりとした目鼻立ち。さらりと流した長髪に引き締まった口元。
 間違いなく、二木佳奈多さんその人だった。
 ただ目の前の人物が佳奈多さんであることは問題ではなく、いや確かに問題はあるんだけどそんなものは微々たる物でしかならなくなるほどの問題だった。
 近い。
 ものすごく近い。
 思わず二回言いたくなるほどに近い。どのくらいかというと佳奈多さんの呼吸が聞こえるぐらいに。前髪は僕の額に届いているし、もう少しで鼻先が――あ、くっ付いた。
「ひふぁあ!?」
 悲鳴(のようなもの)をあげながら佳奈多さんが立ち上が――
「痛っ」
 ろうとしたのだけれど、再び僕の上に倒れこんでしまった。先ほどよりも位置が擦れたおかげで佳奈多さんの頭は僕の胸の上に移動してくれた。
「…………」
「…………」
 微妙な間が生まれてしまった。
「えっと……大丈夫?」
「……あなたに心配されるほどのものじゃないわ」
 いたって平静な会話をしているけれど、僕は廊下に寝そべったまま。佳奈多さんは僕の胸の上に倒れたままだ。よく考えたらこの格好は他の人から見ると佳奈多さんが押し倒した格好に見えるのかなとか、こういう時意外と冷静になれるものだなとか、妙にいろんなことを考えていた。
 いや、多分僕が冷静で居るのは落ち着いているからじゃなくて、慌てすぎて感情が追いついていないんだ。頭の中はパニックになりすぎて逆にゆっくりにしか動かないからだろう。
 佳奈多さんは床に左手をつき、僕の上からゆっくりと立ち上がった。
「その……大丈夫?」
 なんと声をかけて言いか迷ったけれど、結局出てきた言葉はそんなありきたりの言葉だけだった。案の定、佳奈多さんは返答の代わりに嘆息と冷たい視線を送ってくれた。
「あなたは数秒前の出来事さえ覚えていられないのかしら? 私は大丈夫といったはずよ」
「でも右手……怪我してるよね?」
「それもふまえて心配する必要なんて無いと言ったのだけど? それにぶつかったのはこちらにも非があったから。怪我は助けてもらったのでイーブンよ」
 そう言い捨て、もう話は終わりとでも言うように足元に散乱していた紙を集め始めた。よく見れば階段の下にも多くのプリントやダンボールが散らばっていた。
 全部集めれば女の子一人では到底運びきれる量ではない。もしかしたら佳奈多さんはこれを持っていたせいで僕に気がつかなかったのかもしれない。
「手伝うよ」
 とりあえず階段の下に落ちているものを集めよう。そう思って足を踏み出したところで背中に声が突き刺さった。
「――結構よ。余計なことはしないでくれる?」
 思わず背後を振り返ったものの、佳奈多さんはこちらを見ることなく紙を拾い続けていた。
 さすがにこれにはムッときた。
「そういう言い方はないんじゃないのかな?」
 手が止まる。
「わざわざ相手の厚意を突き放したりしなくてもちゃんと受け取ればいいんじゃないの? 謝られたら『気にしないで』とか、親切にされたら『ありがとう』って言えばいいじゃないか」
「…………」
「別に突き放す必要なんか無いんじゃないの?」
「…………」
 そのまま僕に背中を見せたまま、じっと考え込むように沈黙を保っていた。
 そして短い溜息の後、小さな声で言った。
「……好きにしたら」


「よしっ……」
 全部拾うまでにはそれほど時間がかからなかった。確かに一つずつの重さは大したことは無い。けれど全部合わせると結構な重さでなおかつかさばってしまった。ダンボールの中に入っていたのは何に使うのか良く分からないものだらけだったけれど。
「これってなんなの?」
 紙を整えながら佳奈多さんに声を掛ける。
「委員会の書類と各部が所持していた違法物の徴収品よ」
「違法物……」
 確かに怪しげなものとかあるけど……
「でも――」
 なんで佳奈多さんが一人で? と聞こうと思ったけれど、おそらく関係ないの一言でおしまいになってしまうだろう。確かに風紀委員でもなんでもない僕には無関係ではあるのだけど。
 だから代わりに別の言葉を口にした。
「これどこまで運ぶの?」
「部外者には教えられないわ」
「でも階段を上がってきたってことは四階に運ぶんでしょ?」
「意外と思考能力は良いようね」
「意外とってひどいなぁ」
 地味にへこんでしまった。
「とりあえず四階のどこかの教室に運ぶんだよね? だったら手伝うよ?」
「何故あなたが手伝う必要があるのかしら?」
「何故って……別に理由なんて無いよ。しいて言えばそれが当たり前だからかな?」
 僕の言葉に怪訝そうな表情を浮かべている。
「無理やり理由を作るのなら、佳奈多さんが手首を怪我してるからかな」
「……訂正しておくわ。意外と観察眼もあるようね」
「だから意外とって……」
 思わず苦笑が浮かんでしまう。
「……冗談よ」
 そう言った佳奈多さんは表情はいつもよりも柔らかい気がした。
 けれどそれも一瞬、すぐに普段どおりの引き締まった表情に戻ってしまった。
「それじゃあそのダンボールを運んでくれるかしら」
 自分はプリントの束を持つと(それでもすごい量なのだけど)身を翻して歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 慌ててダンボールを抱えて先に歩いていた佳奈多さんの後を追う。
「…………ありがとう」
 佳奈多さんが小さく何か呟いたように思えたけど、後を追うのが精一杯で聞き返す余裕なんてなかった。


 ガチャガチャとドアをゆする。けれどどれだけ動かそうともドアが開く様子は一向に無い。まあドアに鍵がかかっている時点で開くはずがないんだけれど。
「まったく、事前に通達しておいたのに……」
 南京錠がかかったままの空き教室。
 不機嫌そうに眉をひそめた佳奈多さんは、ドアを前にしたまま暫く思案すると、仕方無さそうにこちらに振り返った。
「あなたはここまででいいわよ。後は私がやるわ」
「……これどうするの?」
「ここにおいておくわけにもいかないでしょう。他の教室にも置く場所が無いから、私が寮に持って帰って明日にでもまた持ってくるわ」
「これ持って帰るの!?」
「だから私が持っていくといったでしょう。あなたにそこまで手伝わそうなんて思わないわ」
「そういうつもりで言ったわけじゃないんだけどね」
 ダンボールを再び抱えながら言う。
「ここまで持ってきたんだから手伝うよ」
「そこまでしてもらわなくても結構よ。それに重いのでしょう? 随分と苦労していたみたいだけど」
「その重い荷物を葉留佳さん一人で持っていけるのかなって思ってさ」
 思いがけない返答だったのか、佳奈多さんは珍しく言葉を詰まらせるとばつの悪そうな表情を浮かべた。
「だからさ、寮まで運ぶよ」
「……とんだお人よしね。あなたそのうち大損するわよ」
「そのぐらい慣れてるよ。それに誰かのためになるんだから損じゃないと思うな」
「それがお人よしだって言うのよ」
 呆れた口調だったけど、そのなかに嘲笑は含まれてはいなかった。

 寮までの道すがら、相変わらず佳奈多さんは僕の少し前を歩いていたけれど、その歩調は僕のことを考えてくれたのか意外とゆっくりで楽についていくことができた。(ただし隣に追いつこうとすると途端に早歩きになったけれど)
 ただ黙々と歩く。ちょっとした気まずさはあったものの、傍に居づらいというわけではなかった。刺々しい雰囲気もなく、ただ距離感を掴みかねているというのが一番正しかったかもしれない。
 こちらは葉留佳さん経由でいろいろと知っているし、そうでなくても佳奈多さんは目立つ存在だったから人柄もそれなりに知っている。だから全くの他人というわけではないのだけれど、佳奈多さんは僕のことをほとんど知らないという状態だったからどう話しかけていいのか戸惑ってしまったのだ。
 そんなわけで結局寮の前まで一言も話すことなくついてしまった。
「えっと……」
 ここで佳奈多さんまで渡すべきか、それとも佳奈多さんの部屋まで運ぶべきか。
 そんな僕の逡巡を理解したのか、問いかけるような視線を向けた。
「それじゃあ部屋まで運ぶよ」
「風紀委員の前で大胆な発言をするのね」
「え? あ、別に変な意味で言ったわけじゃないよ? それにただ部屋の前に行くだけだから何の問題も無いわけだし……」
「ルールの問題じゃなくてモラルの問題よ。女生徒の部屋に男子生徒が行くというのは客観的に見てあまり褒められたものじゃないわね。
 第一男子生徒は女子寮には近づけないわよ?」
「それは大丈夫だと思うけど。前に鈴やクドの手伝いで寮に行ったけど何にもなかったし」
「…………そう」
「それに佳奈多さんが一緒だからね。みんな変な間違いは起こらないって思ってるよ」
「間違い、ね……」
「どうかしたの?」
 一瞬なんだか複雑そうな表情をしていたように見えたけれど見間違いだったようだ。
「仕方ないわね。今回は委員会の仕事を手伝ってもらっているわけだから大目に見るわ」
 それだけ言うと、佳奈多さんはすたすたと先に歩いていってしまった。
 暫く呆然としていたけれど、慌てて佳奈多さんの後を追って女子寮の玄関を潜っていった。
 なんだろう、自分のペースに他人を巻き込むあたりやっぱり姉妹ということだろうか。佳奈多さんの横顔を見ながらそんなことを思ってしまう。
「ここよ」
 とある部屋の前で佳奈多さんが足を止めた。ポケットから鍵を取り出しロックを解除する。
「入って」
 僕が通りやすいよう先に入りドアを広げていてくれる。こういうさりげない気配りが出来るあたりやっぱり悪い人ではないみたいだ。
「お邪魔します」
 軽く一礼してから部屋に入る。
「とりあえずそこに置いておいてくれる」
「うん」
 机の脇に荷物を置き一息つく。結構な重さだったので腕が赤くなっているだろう。もしかしたら明日は筋肉痛かもしれない。
「それじゃあ僕はこれで……」
 あまり長居するのも悪いだろうと踵を返す。
「待ちなさい」
 けれど意外にも佳奈多さんに呼び止められてしまった。
「生憎手伝ってもらって何の礼もせずに帰すほどいい加減にはしつけられていないのよ」
「え?」
「まああなたがどうしてもと拒むのであれば仕方が無いのだけれど、ただそうでなかったのなら礼を受け取ることも人間として大切なものだと思うわ」
 もったいぶった言い回しだったのでその意図を上手くつかめずにいた。そんな僕の様子に埒が明かないと思ったのか、咳払いをした後ややうわずった声で口を開いた。
「お茶ぐらいなら出すわよ」
「あ……いや、うん。それじゃあ、お願いします」
 予想外の申し出にかなり戸惑ってしまったものの、佳奈多さんがそう言ってくれているのに断る理由もなかった。首を立てに振ると佳奈多さんは戸棚を探りながら小さな丸テーブルのある辺りを指差した。
「それじゃあ適当に座って待っていてくれるかしら。クッションは使っても構わないから」
「……ありがとう」
 緊張しながら床に腰を下ろす。近くにあった一番シンプルそうなクッションを選び下に引く。
 それにしてもいやに緊張する。鈴とかクドとか小毬さんとか、バスターズのメンバーの部屋ならばこんな風にならないのにどうしたんだろう。嫌な感じではないんだけれどどうしても落ち着かない。
 暫くぼうっとしていたのだけど、することもなくついつい視線があちこちをさまよってしまう。
 最初に思ったのはシンプルな部屋だということだった。鈴の手伝いをしたときにも思ったけどやっぱり配置は僕の部屋と大して変わっていない。大きな違いといえば二段ベッドではなくシングルベッドというぐらいだろうか。特別手が加えられているというわけでもなさそうだ。
 違うといえば一番の違いは部屋の空気とでも言うんだろうか。僕たちの部屋と比べるのはどうかと思うけど、なんだかいい匂いがした。上手く言えないんだけど、すごく『女の子の部屋』といった感じがしてなおさら緊張してきた。
「あまり他人の部屋を眺めるというのはいい趣味とは言えないわよ」
「ご、ごめんっ!!」
 突然声がかかったことと、見られていたというきまりの悪さから、驚くほど大きな声を出してしまった。そんな僕を佳奈多さんは驚きと呆れが半々の表情で固まっている。
「そんな真剣に謝られるとこっちが悪い気がしてくるじゃない」
 僕の前にカップとトレイを置きながら自分も僕の対面に腰を下ろした。
「余りものでどうかと思ったのだけれど」
 マフィンだろうか。生憎僕はそれほどお菓子には詳しくないので良く分からないけど、少なくともおいしそうであることには間違いなかった。
「まあそれなりの出来だから食べられないことはないと思うわ」
「これって佳奈多さんが作ったの?」
「出来が心配だと思うのなら別に食べなくても構わないわよ」 
「佳奈多さんの作ったものが美味しくないなんて無いと思うけどな」
「食べたことも無いのによくそんなことが言えるわね」
「だって葉留佳さんがよく言ってるから。佳奈多さんは料理が上手だって」
 現にお店で売っているのもだと思ったし。
「そう……あの子がね」
 呟いた佳奈多さんの表情は角の取れた表情で、優しげな微笑を浮かべていた。
 僕はその綺麗な笑みに見入ってしまっていた。
「あなたにはお礼を言わないといけないわね」
「お礼って……なんの?」
「葉留佳……と私のことよ。きっとあなたが居なければ在学中にまともな会話が出来るなんてなかったでしょうね」
「それは葉留佳さんが自分で解決したことであって僕は何も……」
「でも少なくともあの子はあなたのおかげだと思っているみたいだけど?」
「それは……」
「そして私もそれは間違いではないと思っている」
「え……」
「わざわざ相手の厚意を突き放したりしなくてもちゃんと受け取ったら?」
 ちょっと冗談っぽく、からかうような口調で僕の言葉をそのまま返してきた。そんな佳奈多さんらしい言葉に僕も釣られて表情が和らいでいた。
「どういたしまして」
 初めより幾分か和んだ雰囲気に変わっていた。あまり居づらいという感じもなくなってきたし、僕の持っていたイメージよりも佳奈多さんが柔らかいということもあってそれなりに会話を交わすことが出来た。
「あの子会話をするたびにあなた達のことばかりだから、なんだか変な感じね」
「それはちょっと恥ずかしいな」
 自分が他人の話しの種になることなんてほとんど無いから変な感じだ。第三者に伝わるってことは、それは葉留佳さんから見た僕の人物像ということだ。いい評価だったとしても悪い評価だったとしてもすごく恥ずかしい。
「私に話す暇さえ与えずに、今日は何をやった、誰かが面白いことを言っただとか。その話題が楽しそうなのも、その内容を話すあの子が楽しそうなのもいいことだと思うわ」
「葉留佳さんらしいね」
「まあその中でも一番多かったのがあなたの話なのだけれど」
「僕のって……どうして?」
 葉留佳さんのことだから来ヶ谷さんの話題が一番多そうだと思うけど。
「……難儀なものね」
 あからさまな溜息をつかれてしまった。
「まあ聞いたとおりというかイメージ通りというべきか」
「イメージ通りって?」
「あの子の話によく出るって言ったでしょう? だけどあの子の言うことはあまり要領を得ないから。だから話からなんとなく推察したイメージにね」
「ああ……なんとなく分かるよ。僕も佳奈多さんのこと結構聞かされてたから」
「……なんて言っていたの?」
 やっぱり佳奈多さんも他人の評価が気になるんだろうか。いや、他人じゃないから気になるんだろう。
「今日佳奈多さんと何をしただとか。その中で佳奈多さんのことをいろいろ聞くんだよ。例えば料理が上手だとか、完璧そうに見えて意外と抜けてるとか、ちょっと融通が利かないとか。あとは……」
「あとは?」
「意外と優しい、だって」
「…………」
 思いっきり照れているようで耳が真っ赤になっていた。ハンカチで風を送りながら何とか平静を取り繕っている。ただ取り繕っているのが簡単に見て取れるほど動揺していたけれど。
 若干汗ばんでいるのをハンカチで拭っている。まあ今日は暑いし、その上あれだけ赤くなれば汗も掻くか。
「暑いんだったら脱いだら?」
 第一今日は半袖で過ごすような気温なのに長袖、しかも上着を着ている時点で暑いと思う。
 そう思っていたのだけど佳奈多さんに思いっきり微妙な表情をされてしまった。
「…………女生徒に向かって脱げだなんて、随分と思い切ったことを言うのね」
「え……?」
 疑問、思案、解答。僅かな間の後ようやく佳奈多さんの意味するところが理解できた。
「ああああの、そのっ、僕は別にそういう意味で言ったんじゃなくてただ暑かったら上着を脱いだほうがいいんじゃないかって思っただけで」
「それもどうかと思うけれど」
 僕の狼狽っぷりにちょっと呆れているみたいだ。なんだろう、実はからかわれているんだろうか。
「まあどっちにしても上着を脱ぐつもりは無いわ。残念ながら下は半袖だから」 
「どうして? 半袖なら脱いだほうがいいんじゃないの?」
 すると佳奈多さんはあからさまに嫌そうな表情になってしまった。
「あなたも聞いたことあるんじゃないかしら。私の制服の下がどうなっているのか」
 そこまで言われてようやく気がついた。佳奈多さんが半袖を着ない理由。
「まあそういうわけよ。わざわざ見せて気分を害す必要のないわ」
 そうやって自嘲気味に言い捨てる佳奈多さんの姿がどうにも嫌だった。自分のことを大切に扱っていないような言葉。他人からどう思われようが構わないとでもいうような態度。そのくせ周囲に迷惑をかけないよう、かけさせないよう決まりを守らせる。僕にはそれがとても息苦しそうに思えた。
「……でもここは佳奈多さんの部屋でしょ? そんなこと気にする必要ないと思うよ」
「今はあなたが居るでしょう? それにいつ誰が尋ねてくるか分からないじゃない」
「今は僕しか居ないよ?」
「そのあなたがいるじゃない」
 この話は終わりだと言うように佳奈多さんが立ち上がった。
「僕は……」
 それでも僕はそこで話しをきりたくはなかった。
「僕はそんなこと気にしない」
「そんなことって、あなた……」
「佳奈多さんがどういう境遇だったかは、一応知っているし、佳奈多さんの気持ちが分かるわけじゃないけどどれくらい苦しんでいたのかは知ってる。
 その苦労を、その努力を、佳奈多さんが生きてきたその過去をそんな風に否定したくない。僕はそんな傷関係ないと思う」
「…………」
 背を向けたまま、何かを言おうとし、結局口をつぐむ。
 そんな行為を何度か繰り返した後、佳奈多さんは服を――あるいは腕をぎゅっと掴み、搾り出すように呟いた。
「……気にしないだなんて、ずいぶんと簡単に言うのね」
「簡単じゃないよ。ただそんなもので佳奈多さんに対する見方を変えたくないから自分に言い聞かせてるだけだよ。
 だから少なくとも僕がそう思ってることだけは信じてほしいな」
「…………そんな安易に信じられるわけ、ないじゃない……」
 手を顔にやり、こちらに向き直る。
「でもそんな無遠慮なあなたに気を使う必要は無いようね、直枝君」
 目元を濡らしながら、けれどもその表情は明るかった。
 晴れやかなその笑顔、それはとても綺麗だった。
「やっぱりあなたはお人よしね。その上おせっかい。ずかずかと他人の領域まで踏み込んできて親切の押し売りをする。それが他人の迷惑になると思わないの?」
「どうだろう……よく考えたことないかな。ただ少なくとも僕はそうやって恭介たちに助けてもらったから」
「それならあなたの周りがみんなお人よしなんでしょうね」
「それだと佳奈多さんもすごいお人よしだよね」
「私が?」
 思い当たる事柄が無いようで驚いた表情を浮かべている。やっぱり気がついていないあたりお人よしだ。
「だって葉留佳さんのためにずっと辛い思いしてたんだよね? 何の見返りも無いのにそれをし続けるのはきっと佳奈多さんが優しいからだよ」
 驚きの表情から照れの表情へ。その変化がはっきりと見て取れた。あまり顔に出ないかと思っていたけれどそうでもなさそうだった。
「まったく……そういうことを平気で言うから勘違いする子が出てくるのよ」
「勘違い?」
「まあそれは直枝君が気にすることじゃないわね」
 僕を見下ろしながら小さく笑う。なんだか笑われているようだけど不思議と不快ではなく、こっちもつられて笑ってしまいそうだった。
 それにしても直枝君か。
「そういうのはあんまり慣れてないかな」
「慣れてない?」
「直枝君って呼び方。みんなは名前を呼び捨てにするか君をつけるか。あとは直枝さんって言われてるから。仲の良い友達にそう呼ばれるのはなんだか新鮮な気分かな」
「仲のいい、友達……?」
「……違った?」
 思わず恐々と尋ねてしまった。
「いいんじゃないの。お互いにそう思っているんだから」
 見上げる視線と見下ろす視線が重なり合う。言葉はなかったけれど、そこには言葉には出来ない暖かさがあった。
「佳奈多ー、いるー?」
「――っ!?」
 そんな優しい沈黙が漂う部屋の中に割り込む声があった。
 数度叩かれるドアの音に、お互い目を見合わせてしまう。
 それにしても聞き覚えのある声のような……
「佳奈多ー?」
「あっ、ちょ、ちょっと待っててくれるかしら?」
「何で? なんかしてるの?」
「いいから!!」
「ま、まあいいけど……」
 鬼気迫るような佳奈多さんの迫力にドアの向こうの相手もたじろいでいた。
「ちょっとこっち来て」
 もしかして今の状況って危ないのかなとか、僕はどうするべきなんだどうかとか、戸惑っていたところで急に手を引っ張られた。
「ここに隠れてて」
 連れてこられたのはクローゼットの前。確かにここしか隠れる場所は無さそうだけど、入っていいのだろうか。
「いいから早く!!」
 小声で叫ぶという器用な真似をしながらクローゼットの中に追い立てられる。
「なんかばたばた聞こえるけど何やってるの?」
「え!? あ、その……そう、今着替えている最中なの!!」
「なんだ、それなら別にいいじゃん」
 そういってドアが開かれてしまった。
 僕がクローゼットのドアを閉じるのとどちらが早かっただろうか。とりあえず間一髪で隠れることは出来た。ただ慌てていたので扉を閉じきることが出来ず、僅かに隙間が開いてしまった。
「あれ? 着替えたのにまだ制服なの?」
 佳奈多さんの姿を見て疑問を投げかけた来客者は僕もよく知る人だった。
「え、ええ……当たり前でしょ。ここは寮なのよ? だったら制服でいるのが当然じゃない」
「うわ〜かったいなあ……」
 佳奈多さんのことを辟易した目で見るのは葉留佳さんだった。まあ聞いたことのある声なのは当然か。
 そのまま部屋の中に入ってくる。学校からそのまま来たのだろうか、鞄を持ったままだった。
「それで、一体何の用かしら?」
「何の用ってひっどいなあ。折角持ってきてあげたのに」
 そう言って手に持っていた鞄を突き出す。
「忘れ物。これ机の上に置いたままだったんだけど」
「そういえば……」
 思い出したように声を出す。まあ佳奈多さんだけじゃなく僕も忘れてきたんだけど。えっと、教室の机の上に置いたままだったかな? 一応携帯と財布はポケットに入っているから大丈夫だけど。
「おかげで大変だったんだから。学校中探したけどいないし、仕方ないから帰ってみたら寮にいるっていうし」
「それは……悪かったわね。これを運んでいたから」
 ダンボールを指し示しながら言う。
「それで少し汗をかいたから着替えていたのよ」
 おお、なかなかに上手い言い訳だ。違和感なくさっきの話に繋がっている。
「ほほう。それで優雅にティータイムですか」
 うわっ、そういえばカップが出しっぱなしだ!! しかも二組も出てるし!!
「こ、これは……そう、紅茶を入れる練習していたのよ」
「コップも二つ出して?」
「ええ。紅茶を美味しく入れるためには一人で飲むときも二人分用意するのよ。ポットのための一杯、自分のための一杯ってね」
 へーそうなんだ。紅茶とか入れたこと無いから全然知らなかった。
「ならお菓子が二人分なのは?」
「ふ、雰囲気作りよ」
 焦りながらも何とか答えを返す。けれど質問をした葉留佳さんは返事には大して興味が無いらしく、聞きながらも視線を部屋のあちこちに向けている。
 そしてその視線が僕のほうを向いた。
「ふう〜ん」
 目が合った――ような気がしただけだと思う。ただその視線が僕のいるクローゼットに向けられているのは確かだ。そしてその葉留佳さんはにんまりと笑みを浮かべた。
 危険だ……危険すぎる。葉留佳さんがあの表情をするときは絶対に何か考え付いたとき、それもいい結果にはなりえないときだ。これはもう間違いなく何かある。
「そういえばさ、佳奈多って制服ばっか着てるけど私服持ってるの?」
「え? 持ってるに決まってるじゃない」
 突然の話題転換に戸惑っている佳奈多さん。葉留佳さんの意図を探るように言葉を返す。けれど僕はそんな悠長なこと考えて入られなかった。次の展開が容易に想像できるからだ。
「そうなんだ。ならさ、ちょっと見せてくんない?」
 立ち上がりこちらのほう――クローゼットに近づいてくる。ようやく葉留佳さんの意図に気付いた佳奈多さんが腕を引っ張り止めにかかった。
「ちょっ、ちょっと待って!! 今は、その……ちょっと中が散らかってるから!! 開けると中のものが飛び出てくるから!!」
「だったら丁度いいじゃん。私が片付けるの手伝ってあげるよ」
「あ、あなたに任せたら余計に手間がかかるでしょう!?」
「そんなに必死にならなくてもいいのに。それとも、中にいるのがそんなに大事なのかな〜?」
 やっぱり確実に気付いてる。さすがに僕が居るのは知らないみたいだけど、クローゼットの中に『いる』って言う時点でほぼアウトだ。
「中には何がいるのかな?」
 完璧に面白がっている葉留佳さん、動揺しまくっている佳奈多さん。いつもとは逆の光景、だけれど微笑ましく和んでいる状況では決して無い。
「い、いるって、なにが?」
「隠さなくてもいいじゃん。入ってるんでしょ?」
 び、っと指差す葉留佳さん。向けられた先は当然のように僕のほう。錯覚だろうけどその指先が僕のほうに向けれらている気がして仕方がない。
「は、入っているわけがないでしょう? こんなのところに人がいるわけないじゃない」
「そうだねー。確かに人がいるわけ、ないよね〜」
 人、の部分を強調して怪しげな笑みを向ける葉留佳さん。
「なら何が入ってるのかな?」
 すでに中にいるのが前提になっている会話。普段ならそのあたりの話術は佳奈多さんに分があるのだけれど、完全に劣勢に追い込まれていた佳奈多さんにそんな余裕はなかった。
「そ、それは……そう!! ペットがいるの!!」
 名案を思いついたとばかりに口を開く佳奈多さん。けれど葉留佳さんはにやにやとその言葉を聞き流すだけだった。
「ペットかあ……」
 自分のことを言われているわけじゃないんだけど、どうしてもペットという言葉が自分に向けれらているようで複雑な気分。
「そう、ペットなの!! ほら、寮で入れるのはあんまり良くないからちょっと隠していたのよ!!」
「なーるほど。それでさ、そのペットってなんなの?」
「ええっ!?」
 そこまで考えていなかったのか、めちゃくちゃ狼狽している。
「だからその動物の種類だって。ペットって言ってるけど何がいるの?」
「しゅ、種類よね、ええ。その……ね、猫よ。は、葉留佳が猫の種類を聞いていると思ったから……」
「猫かあ。猫なら鈴ちゃんとか寮長さんが詳しいから聞いてみたら?」
「そそそうね、そうさせてもらうわ」
「でもこのあたりの野良猫なら鈴ちゃんにくっ付いてると思うんだけど」
 葉留佳さんの言うとおりだ。寮の辺りにいる猫は大概鈴のお供になっている。しかも今ごろ鈴と小毬さんが猫たちと遊んでいることは葉留佳さんも知っていることだろう。明らかにばれているとはいえその誤魔化し方はちょっとマズイ……
「そもそもなんで猫なんて連れて帰ってきたの? いつもなら猫を見たってそのままムシでしょ?」
「あ、う……それは…………可愛かった、から……」
 思わず心臓が撥ねた。佳奈多さんの言葉が僕に向けられているわけでは無いけれど、それでも可愛かったから、と言った佳奈多さんの顔に視線が行ってしまう。
「その猫、大事にしてるんだ」
「え、ええ。大事よ……」
 うわあ……顔がすっごく熱い……
「そっかー。ならいいや」
 すっぱりと話題を打ち切ると、続けてまさに今思い出したかのように、そうそう とわざとらしく言葉をつなげた。
「今日珍しく佳奈多が男子生徒と歩いていたって聞いたんだけど」
「っ!?」
 誰が見たって本当ですといわんばかりに反応だった。身体を半身仰け反らせたまま固まり、冷や汗をかいた表情。今まで見たことのない珍しい佳奈多さんの一面だった。
 とか言っている場合ではなく。
「風紀委員でもどこかの委員会の人でも無いって話だけど、それって誰だったのかなあ?」
 にやあと楽しそうな笑顔で佳奈多さんに迫る。それに対し佳奈多さんはあーとかうーとか唸りながら必死に言葉を探している。
「あ、あれは親切な人が手伝ってくれただけよ」
「ほえ〜珍しいこともあるんだね。佳奈多が手伝ってもらうだなんて。いつもなら全部自分でやっちゃうくせに」
「そ、それは……成り行きで…………」
「で、成り行きで部屋に上がってもらったと」
「ななななーーーっ!?」
 何でーーーっ!? と僕も叫びたかった。
「おやおや、その様子じゃやっぱり本当だったみたいですネ」
「ぐっ……」
 や、やられた……かまをかけられた……
「ま、予想通りっていうとこかな。佳奈多が部屋に荷物運んでもらってるの見たって人がいたし。それにさ〜、玄関に靴おきっぱなしっていうのはまずいっしょ?」
 し、しまった……荷物置いたらすぐに帰るつもりだったから置きっぱなしだった……
「で、もしかしたらと思ったけど、もしかしたようですネ」
「ううぅ……」
 完全に手玉に取られた佳奈多さんというのも初めてみたけれど、手玉に取る葉留佳さんというのも初めて見た。
 当の佳奈多さんは言葉にならない声を絞り出している。何か言おうとするけれど、何を言ったらいいのか分からないようだ。
「そんでその親切な男子生徒はどんな人なのかな〜? そこにいるんでしょ?」
 そして一方の葉留佳さんは鬼の首を取ったかのように嬉々として佳奈多さんに詰め寄っている。
「どんな人? ちょっと会わせてよ」
「だ、駄目よ!! その、いろいろと問題が出てくるから。それに彼にも迷惑がかかるし」
「うわー彼だって」
「そういう意味じゃなくてっ!!」
「いいじゃん。もしかしたら私の弟か兄になるかもしれないんだし」
「ええっ!?」
 思わず声が出てしまった。佳奈多さんの声と重なったものの、十分に聞こえる大きさだった。
 そして佳奈多さんも僕の声に気付いたようで、驚いてこっちを振り返った。
「スキありっ!!」
 葉留佳さんは背中を見せた佳奈多さんの足を引っ掛けた。
 床が滑りやすかったというのもあるだろう。動揺していて無防備だったというのもあるかもしれない。
 見事にひっくりかえされた佳奈多さんはそのまま床にしりもちをついた。受身を取ったのはさすがだったけれど、僕は動けずにいた。
 内側にも取っ手に代わる部分があるから、引っ張って時間を稼ぐことも出来たかもしれない。でも僕の身体は硬直し、そもそも頭が真っ白になっていたから動けるはずもなかった。
 佳奈多さんの身体はこっちを向いていて、それでしりもちをついているから、その……なんていうか…………見えてるから。
「それじゃあごたいめーん」
 そして僕が動けずにいる間に扉は開かれてしまった。
 慌てて佳奈多さんが腰にしがみつく形で止めにかかるものの、時は既に遅し、完全に開け放たれていた。
「…………はい?」
「えっと…………」
 ばっちりと合う視線。お互い沈黙のまま見つめあう。ここは何か言うべきだろうか?
「…………」
「…………」
「…………」
 誰も何も言わない。ただただ沈黙が続く。
「…………」
 葉留佳さんの目が僕と佳奈多さんを行き来する。
 そしてそのまま扉はもう一度扉は閉じられてしまった。

 それから佳奈多さんと葉留佳さんの仲が非常に気まずく微妙な空気を漂わせることになるのだけれど、それはまた、別のお話。











「あれ西園さん。何を読んでいるのですか?」
「これはおまじないの本です」
「おまじないですかっ」
「……興味ありますか?」
「はいです」
「ではどうぞ」
「ほんとうですか? ありがとうございます…………あれ? ここのページに折り目がついていますがなんなのですか?」
「……それはとても強力なおまじないです。ですからむやみに使用してはいけません」
「そ、そうなのですかっ!?」
「はい。現に使用した人は……」
「わかりましたっ、気をつけますね」
「まあ簡単には成功しませんから問題はありませんが」
「なるほど。ちなみにどんなおまじないなんでしょうか?」
「そこに書いてあるとおりですよ」
「えっと、ろうかで気になるあの子とぶつかって急接近、あの子に部屋でドッキドキ、家族が現れハッラハラ、ですか」
「気をつけてくださいね。解除の方法は、ありませんから……」







 リトバスとリライト。どっちが出るの早いやら。まあ普通に考えるとリトバスのほうが早そうだけど。まあじっくり待ちましょか。今は25日を楽しみに待ちましょう。

 次回更新は遅くなるかも……σ(~〜~、)
 学校始まるし、ちょっと一時小説かくし……w


 まあ何かくかは未定。結局キリ番もなんもなかったし。気が向いたら新しいのにいくかもね☆


 つーか絶対幸せ宣言は駄作だった↓





テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

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リトルバスターズSS 〜本日より絶対君主制に移行しました。〜 後編

 リトルバスターズSS 〜本日より絶対君主制に移行しました。〜 後編

 十一順目
 とりあえず札を二つ減らして番までとした。
 この季節だから、そうでなくても真人と謙吾なら風邪をひいたりなんかはしないだろうけど、多分朝まで起きないだろうと思い、恭介と二人で引きずるようにして布団に寝かせておいた。
「ふう……」
 意識の無い人を運ぶのはやっぱり重労働だ。まあ同じ気絶でもいろいろと意味は違ってくるけど、とにかく二度とやりたくないのは同じだ。
「いやー、それにしてもお酒の力はすごいデスネ」
「確かにすごいけどさ……」
 とりあえずコレは飲むものじゃないと思う。
「いやはや、想像以上でしたよ」
 さすがに葉留佳さんも悪いと思っているようだ。苦笑いを浮かべながら視線をさまよわせている。
「ま、謙吾なら大丈夫だろうな」
 背後から恭介がビンにすっと手を伸ばした。
「けど危険だから没収」
「うぅ、すいません……」
 騒ぐのはいいけれど迷惑を掛けてはいけない。葉留佳さんもそれは理解しているためか小さくなってしまった。
 そんな空気を払拭するかのように恭介は明るく場を仕切った。
「とりあえずアルコールを摂取するのはいいがくれぐれも量を誤らないこと。悪酔いすると大変なことになるからな」
「ほう、ならば恭介氏のロリ発言は悪酔いしていたからなのかね?」
「ぐっ……」
 うわ、痛いなあ……
 来ヶ谷さんも分かっているのにわざとだ。
 いつもの恭介なら何とか交わすかもしれないけど、今は打たれ弱くなっているに違いない。
「その、恭介も冗談で言ったんだよ……」
 ここは何とかフォローしないといけない。
「めちゃくちゃ……いや、くちゃくちゃ本気だった」
 けれどそんな気遣いはあっさりと鈴に否定されてしまった。
 意見は一対一、けれどその比重は比べるまでも無い。男尊女卑では無いけれど、こういう場での発言は女の子の方が圧倒的に重視される。応援を頼もうにもあっちで布団に入ってぐっすりしているのが二人だけ。それ以外のみんなは、恭介のことを半分呆れたような目で見ている。
 あの冷ややかな目……きっと酔っているだけだと信じたい。
「理樹……ありがとな……」
「恭介?」
「例えどれだけ敵がいようとも、お前が仲間でいてくれるだけで十分だ」
「……当たり前でしょ」
 恭介が差し伸べてくれたあの手。そして恭介に差し伸べた僕の手。
 ともに困難を乗り越えた仲間たちだから、僕たちはどんなときでも助け合う。
「ふわ、なんかいい雰囲気だね」
「……背景は薔薇ですね」
「みおっちデジカメいる?」
「お借りします」
「どきどきですっ」
 ……なんだろう。この言葉にならないやるせなさは。
「はっはっは。いや、実に仲が良さそうじゃないか」
 楽しそうに僕の肩を叩く来ヶ谷さん。どっちかというと来ヶ谷さん自身がもともとの原因だと思う。
「しかし恭介氏もまんざらではなさそうじゃないか。もしかしてそっちの人なのか?」
 揶揄するような視線を恭介に流し軽く唇を吊り上げる。
「来ヶ谷……」
「いやなに、盛り上げるためのお茶目なジョークだよ」
「それはご丁寧に。発案者としては俺もお返しをしないといけないな……」
「恭介氏自らとは。随分と期待できそうだな」
 不穏な空気を漂わせつつ剣呑な視線をぶつけ合う二人。この二人だと結果がどう転ぶのか全く予想が出来ない。真人と謙吾みたいに力で勝負、みたいにはなったりしないだろうけど、その分精神的なショックが大きくなりそうだ。
「そ、それよりさ、くじ引こうよ」
「ん? それもそうだな」
「ああ。まだ途中だからな」
 意外とあっさりと切り上げた二人。もうちょっと大変だと思ったけれど拍子抜けしてしまった。
 けれど悪いということはないだろう。ここは流れに任せるべきだ。
 置いてあった割り箸入りの筒を手に取り差し出した。
「それじゃあみんな引いて――」
 言い終わる前にみんなの手が一斉に伸びてきた。
 微妙にアルコールが回っているからだろうか、いつも以上にみんなのノリがいい気がする。
 しかしこの光景はどこかアレに似ている。修学旅行という状況もそうだし。
 つまりは奈良のシカたちだ。手に持ったしかせんべいに一斉に群がるシカの集団。微笑ましいんだけどどこか恐怖を感じるのも今の状況に似ている。
 そんなことを考えている間にみんなはくじを引き終えていた。僕も残ったくじを手に取った。
 番号は、残念ながら王様ではなかったけれど、今度は一体誰が王様なんだろうか。
「王様だーれだ?」
 一瞬静まり返る場。みんなが辺りを見回す中で一人だけ無言で立ち上がった。
「――俺だ」
 手に持った札に書かれていたのは『王』、恭介は落ち着いた声で言葉を発した。
「命令を決めようか」
 じっと僕のほうを見て、無言のまま視線を外した。
「――“屬里笋帖
 僕の番号じゃなかった。ほっと胸をなでおろしながら誰だろうと辺りを見回すと、恭介の視線がある一点に向かっていることに気がついた。
「私か」
 来ヶ谷さんが不敵な笑みを浮かべながら立ち上がった。
「さて、ロリ疑惑の恭介君はどんな命令を下してくれるのかね?」
 明らかに挑発している来ヶ谷さんの様子に僕たちは固唾を呑んで見守っていた。
「来ヶ谷の期待には応えてみせるさ」
 けれど恭介はいたって冷静で、逆にその余裕が来ヶ谷さんに警戒心を抱かせた。だからといってもう番号の変更は出来ない。
「それじゃあ“屬里笋弔世――」
 緊張の一瞬だった。
「――H屬里笋弔吠きしめられる」
 緊張は一瞬じゃ終わりそうになかった。
「ふむ、残念だな。私は抱きしめられるより抱きしめるほうが良かったのだが……」
 見当違いな困惑を見せる来ヶ谷さん。
「してH屬話なのかね? もしやクドリャフカ君かね?」
「私じゃないのです」
「ならば小毬君かね?」
「ううん、ちがうよ」
「では美魚君」
「いえ」
「鈴君?」
「ちがう」
「…………」
「ってなんで私のときだけビミョーそうな顔なんすかっ!?」
「では葉留佳君なのかね?」
「や、ちがいますけど」
「ゆいちゃんもちがうから……あれ? みんなちがうの?」
 小毬さんが順に指を指しながら首をかしげる。
「…………」
 なんだろう……この申し訳ない気分は。
「……まだ理樹が残ってる」
 鈴が正解をぽつりと呟く。本当に小さい声だったのに、みんなは一斉にこっちを向いた。
 誰が号令を取ったわけでもないのに統率された動きには言い知れぬ恐怖を感じる……
「一応聞いておくが、理樹君、キミは何番だね?」
「えっと……」
 無言で割り箸を差し出す。
「…………謀ったな」
「ええっ!?」
「いや、まあいい。とにかくさっさと済ませてしまおうか」
 そういうとクッションの上に座りなおした。
 でもなぁ……そうやって堂々とされてもなんだか悪い気がする。というより気が引ける。それに正面から抱きしめるって、こう……すごく恥ずかしいし。
 だからって今更拒否するなんて出来ないし……
 ちらりとみんなのほうを振り返ると全員が興味津々でこちらを見ていた。
 やっぱりやるしかなさそうだ。でも抱きしめるって言われても……
「あっ」
 そうだ、正面からだから恥ずかしいんだ。それだったら見ないようにすればいいじゃないか。
「どうした理樹君。その湧き上がる衝動を私にぶつけるといい」
「……それじゃあ」
 立ち上がり来ヶ谷さんへ歩いて行き――そのまま横を通り過ぎる。
「どこへ行くつもりだ?」
「あ、そのままでお願い」
 不思議そうな顔をする来ヶ谷さんの後ろに回り、そこで膝をついた。
「その……失礼します」
 思わず敬語になりながらそっと手を伸ばした。
 出来る限り危ないとこには触らないように、それでいてちゃんと包むように。
 自然と顔が来ヶ谷さんの髪に埋める形になった。
 お酒のせいだろうか。なんだか頭がぼんやりする。それでいて暖かい、どこか懐かしい匂い。
 なぜだかこうしているのが当たり前のように落ち着く。
 どうしてだろう。こんなことをするのは初めてのはずなのに、こうしているのがとても嬉しく、それでいて悲しい。
 心臓がとても高鳴っているのに、それを冷静に受け止められる。優しくなれる。
「……その……理樹君?」
「え?」
 散漫だった意識が急に引き戻された。
「そろそろ放してもらえると嬉しいんだが……」
 顔は見えないけれど、どこか困っている声だった。
「理樹、もういいぞ」
「え? あっ、その……うん」
 それが何のことかようやく分かった。来ヶ谷さんに回していた手を慌てて放す。
「さっきから言っていたんだが、どうやら聞こえてなかったみたいでな」
「えっと……」
 それって、僕が気付かずにずっと来ヶ谷さんを抱きしめて立ってことで……
「うわ……」
 ものすごい気まずい。来ヶ谷さんを直視できない。
 ちらっと来ヶ谷さんの様子を窺ってみる。と、来ヶ谷さんの顔は真っ赤だった。
 意外、というほどではなかったけれど、来ヶ谷さんが照れているのは珍しかった。あまりそういうのを見せないだけに余計に可愛く見えた。
「どうした理樹、ぼうっとして」
「べ、べつになんでもないって」
「そうか? やけに長い時間来ヶ谷を抱きしめていたように見えたが」
「それは……」
 思わず来ヶ谷さんに視線が行く。
 可愛い? うん、確かに来ヶ谷さんは可愛いと思う。それは間違いないと思う。普段の凛としたかっこいい姿とか、すらっとした綺麗な姿とか、そういうのが来ヶ谷さんらしいといえばそうだけど、時折みせる可愛らしい姿も来ヶ谷さんだとおもう。
「それはその、頭がぼんやりしてて。た、たぶんお酒のせいだね」
「へえ……」
「あ、あはははは……」
 絶対冷やかされるだろうな、と思ってみんなを見たけれど、どうにも様子がちがった。
 赤くなっている来ヶ谷さんもそうだけど、他のメンバーもそれぞれ考え込んでいるように見える。
「お酒……理樹君酔ってたのかな……」
 小毬さんはじっと畳を見つめながら呟いている。
「酔うと抱きつくのでしょうか……」
 クドは難しい顔をしている。
「つまり私にもチャンスはあるんだよね……」
 珍しく葉留佳さんが真面目な顔をしている。
「…………」
 西園さんは目を閉じ何かを考えているようだ。
「まったく、どういうつもりだねキミは」
 みんなのことを観察していると来ヶ谷さんが微妙に不機嫌そうに詰め寄ってきた。
「それに背後から抱きしめるなんて。キミはあれか、後ろからが好きなのか?」
「でも正面からのほうが恥ずかしいでしょ?」
「それは……そうだが」
 理解は出来ても納得は出来ないみたいだ。
「第一じっくり抱きしめるのは他に適任がいるだろう」
「……」
 段々お酒が回ってきたのか、頭がぼんやりしてきた。
 妙な気分だった。普段だったら思わないこと、思っても口にしないようなことが自然と口に出ていた。
「私みたいなのをわざわざ選ぶ必要もあるまい」
「そんなに自分を卑下しなくてもいいんじゃない?」
「ん?」
「来ヶ谷さんだって……その、可愛いし……」
「なっ――」
「かっこよくて綺麗だし……」
「〜〜〜っ」
「それに……」
「………………なんだね」
 寸前で言おうかどうか迷ったけれど、来ヶ谷さんに隠し事はできないだろう。
「……なんか懐かしい気がして。上手く言えないんだけど、その、すごく落ち着く感じで」
 僕の言葉に来ヶ谷さんは何も言わなかった。呆れたのかもしれないし、もしかしたら恥ずかしいのかもしれない。あるいはどうとも思っていないか。真っ赤になった顔を背けただ短く、そうかと答えただけだった。自分でも何を言っているのか良く分からなかったけど、嘘をついたりはしなかったと思う。
 何か言おうと口を開いたものの、その後すぐに恭介が次のゲームの開始を促したのでそこでうやむやになってしまった。

 十二順目
「ようし、それじゃあつぎいこー」
「おっ、やる気じゃないか神北」
 妙にテンションの上がった小毬さんがくじを集めている。
「まあやる気になっているのはいいことだな。そもそも――」
「うっさいぼけ。さっさと始めろ」
「おっ、鈴までやる気じゃないか。いったいどうしたんだ?」
「ほらほらほらっ!! さっさと次いっちゃいなよーっ!!」
「そんな悠長にしている時間はありません」
「…………どうしたんだ、お前たち」
 なぜか全員やる気……というよりは本気になっている。
「まあ悪いことじゃないな。とにかく引いてくれ」
 戸惑いながらも差し出したくじを引いていく。ただしさっきみたいに集まるのではなく、互いに牽制しあうような仕草を見せている。
「どうやら理樹君のおかげで火が付いたみたいだな」
「僕のおかげ?」
「いやなに、適量のアルコールは羽目を外してくれるが枷をも外してくれるというわけだ」
 どうにも来ヶ谷さんの言うことは難しすぎる。
「みんな取ったな? それじゃあ、王様だーれだ?」
「私ですっ」
 手を上げたのはクド。嬉しそうに飛び跳ねる――と思いきや、何か考えるかのようにうなっている。
「決めましたっ。ト屬里劼箸呂酒を飲んでください」
 意外だった。言い方は微妙かもしれないけど、クドだったらもっと子供っぽいことを言いそうだったのだけど。
「おっと、また私か」
 来ヶ谷さんは蓋の開いていない缶を取り出すと片手で引っ掛け、プルタブを空けると紙コップいっぱいに注ぎこんだ。そしてそれを躊躇することなく口元へ運び傾けた。
「おおー。さすが姉御、見事な飲みっぷりですネ」
「なに、これくらいは問題ない……が、問答無用というわけか」
「……そりゃチャンスですからね。クド公も狙いますヨ」
「そして葉留佳君もか」
「チャンスですからネ」
「確かにな。知らぬは本人ばかりというわけか」
「ま、そーゆーことですヨ」
 軽い口調の裏に隠された覚悟を決めた目つき。その視線に立ちはだかるように相対する笑み。
 二人だけでなくその他のメンバーの雰囲気も異常だった。
 ただのゲームのはずなのに、ただ楽しいだけで終わらせる気なんて微塵も感じられない。

 十三順目
「男も女も、ときには本気にならないといけないときがあるってことさ」
「本気って……何に対して?」
「それは俺の口から言えるようなもんじゃないさ。ただ、いつか理樹にも分かるときが来るはずだ」
 優しい口調だったけれど恭介はそれ以上教えてはくれなかった。
「じゃ、次行こうか。王様だーれだ?」
「……私です」
 すっ、と手を上げたのは西園さん。
「先ほどの三枝さんの方法では駄目です。あれでは確率が低すぎます」
「だったらみおはどうするんだ?」
「簡単です……命令します、奇数番号の人は飲んでください」
「はぁ!?」
 そんなのありなの? 確かに番号の複数指定はありってことだったから問題は無さそうだけど。
「ありだな」
 なんかもう恭介自身がルールみたいになってきてるし。そもそもみんなはそれでいいんだろうか。
「って飲んでるし!?」
 何の躊躇もなくコップに注いでいる。
 どうやら奇数だったのは小毬さんに葉留佳さん、来ヶ谷さんとクドのようだ。
「理樹は何を騒いでいるんだ?」
「何をって……鈴は大丈夫なの?」
「ん? 何がだ?」
「だからお酒を――」
「ほらほら理樹君、次いくよ」
「わわっ」
 ずるずると葉留佳さんに引きずられ円の中、葉留佳さんの隣に座らされてしまった。
「よーし、次行ってみよー」

 十四順目
「次って……」
「だいじょーぶ。もう準備は出来てるよー」
 どすん、と鈍い音を立てて置かれたのはビニール袋いっぱいのお酒。これが準備って事はもう命令は……
「それじゃあ次ね、王様だーれだ?」
「私だーーっ!!」
 いつもよりも若干テンションが上がりめの葉留佳さんはにんまりと笑顔を浮かべ、芝居がかった仕草で西園さんを指差した。
「ふっふっふ、西園君よ。確かに狙いは良かったがそれだけでは甘すぎる」
「はぁ」
「ときとして目的のためなら犠牲も必要ということですよ」
「で、三枝はどう命令するんだ?」
 長くなりそうと見たのか、恭介が横から口を挟む。
 しかし葉留佳さんはその言葉を待っていたかのように高らかに宣言した。
「命令!! 全員飲みたまえっ!!」
「…………」
 どう反応すべきか周囲に視線をやれば、案の定というべきか、みんな文句一つ言うことなくコップに注いでいる。
 そして来ヶ谷さんの手から葉留佳さんの目の前へもコップが差し出された。
「ありゃ? どーゆーことですか?」
「葉留佳君が言ったんだろう? 『全員飲め』とな」
「はあ」
「ということはだ、『全員』の対象は王様も含まれるわけだ」
「なんですとーー!?」
「他のメンバーに飲ませたければ『王様以外の全員』と言うべきだったな」
「うぅ、失敗した〜〜」
 へこむ葉留佳さんを横目で見ながら頑張ってコップの中身を空にする。そもそも僕はお酒を飲んだことなんて数えるほどしかないし。恭介や来ヶ谷さんみたいに強いほうがおかしいんだ。
 あれ? 二人とも強いんだっけ? なんかイメージが先行してる感じがするけど。まあ見ている限りでは弱そうには見えない。逆に弱そうなのは鈴とかクドが危なそうだけど。
「なるほど。もうてんでした……」
 その危なそうなクドだけれど、別の意味で危なそうだった。なんかすごい真剣に呟いているけれど。
「確かに犠牲は仕方ありませんね……」
 西園さんも不穏な言葉を呟いているし。
「ようしっ、どんどんいっちゃうよー」
 小毬さんにいたってはどこか外れてしまったみたいだし……
「…………」
「ちょっと鈴、大丈夫?」
「ん……理樹か。だいじょーぶだ、問題ない」
「いや、僕はこっちだから……」
「そっちか。いつのまに移動したんだ?」
「……やっぱり大丈夫じゃないよね?」
 完全に酔っ払っている。というか鈴がお酒を飲むのはこれが初めての気がする。友達同士でちょっと、みたいなのも交友関係の狭かった鈴にはありえないだろうし。
「やっぱり休んでたほうがいいんじゃない?」
「……なんだおまえは。あたしが抜けてたほうがいいのか?」
「えっと……その方がいいんじゃない?」
「うっさいぼけ!!」
「えぇ!?」
 どうしてか気遣ったはずなのに鈴は腹を立ててしまったらしい。
「ま、そういう年頃なのさ」
「……よく分からないよ」

 十五順目
「王様だーれだ?」
「私ですっ」
「はいクド公」
「皆さん飲んでください」
 やっぱり……
「ほら理樹君、どうぞ〜」
「あ、うん……」
 いつの間にか隣にいた小毬さんに注がれた液体を飲み干す。今度のは良く分からないけど柑橘系のお酒だった。飲みやすいけれど、さすがにそろそろきつくなってきた。
「では次にいこうか」
「もう!?」

 十六順目
「王様だーれだ?」
「あたしだ。みんな飲め」
 そしてまた注がれるお酒。
「王様だーれだ?」
「ちょっと、まだ飲んでないんだけど!?」
「ならばすぐに飲みたまえ。それともおねーさんが飲ませてあげようか?」
「じ、自分で飲みます」
 急いでコップを空にすると、来ヶ谷さんは満足げな顔で頷いた。
「私が王様です。飲んでください」
 注ぐ、飲む。
「王様だーれだ?」
「私だ。みんな飲みたまえ」
 注ぐ、飲む。
「王様」
「飲めーー!!」
 注ぐ……
「だーれだ?」
「飲んでください」
 飲む……
「王様だーれだ?」
 なんだろう……もうついていけない……
 信じられないくらいのハイペースだ。っていうか今何順目だっけ? なんかすごくいい気持ちだ……
「おっと、俺が王様だな」
 あ、恭介なんだ……
「残念なことにもう酒は無くなったみたいだな」
 そうなんだ……
「それじゃあ仕方ないから別の命令にしようか」
 どこか……悪戯が成功したような誇らしげな笑顔だ。
「修学旅行につきものの話……初恋の話だ!!」
 はつこい? なんだっけ、それ、
「,ら順に初恋の相手を話すこと。,蓮帖朕惜未世福
「はあ、私から〜? うん……いいよ〜。
 私はね、えっと……やっぱりお兄ちゃんかな〜」
 へぇ、神北さんはお兄さんなんだ。なんだか納得できるなぁ。やっぱりって感じだ。
「優しくて〜いっぱい遊んでくれて〜、それですっごくかっこよかったよ〜」
「こまりちゃんの兄か。あれとは大違いだな」
「そうかな? 恭介さんも面白いけどな〜」
「……まあきょーすけはおかしなやつではあるな」
 なんだかんだ言っても鈴は恭介のこと大事にしてるしね。
「あ、でも好きっていうのとは違ったのかな? なんだか今とちょっと違う感じだったし……」
 ふと小毬さんと目が合った。
「えへへ〜」
 ちょっとはにかんだ小毬さんの笑顔。こっちも自然と笑顔を返していた。
「じゃあ△里笋弔蓮帖沈庄爐」
「……初恋、ですか。難しい注文です。
 今の私の感情はあやふやですし、あのときの感情が今のものとは限りません。ですからただ続いているだけなのかもしれません」
「ということは西園の初恋の相手は今好きな相手と一緒なのか」
「ち、違いますっ!! そ、そうは言っていません!!」
「おや、違うのかね? 私もてっきり美魚君のお相手は――」
 しゅばっ、と普段の西園さんらしからぬ俊敏さで来ヶ谷さんの口元を覆いにかかった。
「ふふ、冗談だ。そうムキにならなくてもいいだろう」
「……なってませんから」
 済ました顔で来ヶ谷さんから顔を背ける。
「…………」
 たまたまだろう。背けた先にあった僕の顔をちらちらと上目遣いで見ているような気がする。
「じゃ次な」
「あや、私っすか」
 次は葉留佳さんの番だ。普段から何を考えているのかあんまり分からないからなぁ。
「私の場合恋愛とかそういうのかよくわかんないんですけどね。その、いてほしい人って意味ではあってるんだけどな〜」
「ほう、なかなか深そうな意味じゃないか」
「いや〜姉御の思ってるようなものじゃありませんヨ? ただ仲直りのきっかけを作ってくれたからね。そっから先はどうなのかな〜と。
 実際私の空想みたいなものですし。むしろ脳内!? みたいなもんですヨ」
「しかし君の中だけで自己完結しているわけではあるまい。そこに理樹君は確かにいた、ならば葉留佳君と理樹君を含めたその中の出来事ではないのか?」
「えっと……姉御の言うことはちょっとムズカシイですね」
 なにが葉留佳さんと僕なんだろうか……。葉留佳さんの言うとおり、来ヶ谷さんの話は抽象的過ぎてよく分からない。
「ま、大体伝わったからオーケーだ。次は能美だな」
「はいっ、了解したのですっ」
 気合の入った返事をするクド。座り方も正座に直っている。
「私の場合はいわゆるふぁーすといんぷれっしょんでした」
「ふぁーすといんぷれっしょん? なんですかそれ?」
「……ファーストインプレッション、第一印象のことですね」
「つまりクドリャフカ君は一目ぼれのことを言いたいんだろう」
「そのとーりです。その人はとっても親切で、転校して心細かった私にいろいろと話しかけてくれたのです。それからも私に話しかけてくれたり引越しのお手伝いをしてくれたり、テスト勉強も一緒にしました。それにおまじないをやったりもしました」
「おまじない?」
「その……内容は言えないのですが、とっても中のいい人とするおまじないです」
「おお〜。ということはクーちゃんはその人と付き合ってるの?」
「え? クドって誰かと付き合ってるの?」
「ふわっ!? あの、その……お付き合いできたらいいなとは思っていますが……」
「あ、そうなんだ……」
 びっくりした。そんな話し聞いたことなかったから、僕が知らないだけかと思ってしまった。
「でもその人優しいんだね。クドのためにそこまでしてくれるなんて」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 あれ? みんなどうしてこっちを見てるんだろう。
「理樹、俺はお前のほうがすごいと思うよ……」
「なにが?」
「ま、気にすることないさ」
 気にするなといわれると余計気になってしまう……
「それじゃあ……おっ、次は鈴か」
「ん、私か?」
 あ〜鈴の好きな人か……いるのかな?
「こまりちゃん、あたしは誰が好きなんだ?」
「ふえっ!? えっと、その……ちょっとわからないかな」
「おいおい鈴、そういうのは人に聞くもんじゃないだろ?」
「……あたしにはよくわからん」
「やれやれ」
 困ったように呆れたように、けれど予想通りの答えに恭介は苦笑を浮かべた。
「それじゃあ鈴が一緒にいて楽しいと思うのは誰だ?」
「楽しい……」
 メンバーを見渡す鈴。
「こまりちゃんといると楽しいな」
「ええぇーーーー!? わ、私!? その、気持ちは嬉しいけど、わわ私には好きな人が……」
「なら神北はお前の親友だな」
「ふえ? あ……そゆことね」
「おや、微妙に残念そうな顔じゃないか。どうやら小毬君もまんざらではないようだな」
「なに? そうなのか?」
「そ、そうじゃなくて好きとか嫌いとかじゃなくてでも嫌いって言うわけじゃなくて好きだけどそれは友達として好きっていうわけでだから」
「はっはっは、小毬君は面白いな」
「はうぅ〜」
 小毬さんはぐりぐりと頭を撫でられ、ふらふらしている。
 というかみんなほとんどダウン状態だ。クドにいたってはいつの間にか熟睡している。
「それじゃあ鈴、一緒にいると嬉しいのは誰だ?」
「うれしい……」
 同じようにきょろきょろとみんなの顔を見る。
 その視線が僕とばっちり合った。
「……理樹といるとうれしい、と思う…………」
「ほう」
「たぶんだけど……」
「それは良かった。ま、一歩前進だな」
 そう言って恭介は鈴の頭に手を置いた。鈴の頭を撫でるその表情はなんだか優しい目をしていた。見守るようにいつくしむ様に、まるで父親のようだった。
 鈴も恥ずかしがっているのか、顔を赤くしているものの、嫌がるような素振りは見せなかった。
「次は来ヶ谷だが……」
「私も言う必要があるのかね? 恭介氏の一番の目的は果たしたと思うが」
「さて、何のことだ?」
「ま、いいさ」
「そんで姉御の初恋はいつなんすか〜?」
 話に割ってはいるように来ヶ谷さんの背中にしなだれかかる葉留佳さん。呂律もなんだか怪しいし、大丈夫なんだろうか。
「そうだな、初恋か。まあ無いこともないが……」
「おっ、なにやら意味深な発言じゃないですか」
「そんな取り立てるほどのものじゃない。ただその相手と出会っていないというだけの話だ」
「出会って無いっていうと……メル友かなんかですかね?」
「ハズレだ」
「それなら、えーっと……」
「まあ、想像にお任せしておくとしよう。それよりも次は理樹君の番だぞ」
「え……何が……?」
 なんかすごいぼーっとしてきた。おまけに眠い。
「おいおい理樹、大丈夫か?」
「あ、恭介……うん、大丈夫。ちょっとふらふらするだけだから。それよりも命令ってなんだっけ?」
「……『好きな人が誰かを言う』だ」
「ああそうだったね……うん。好きな人か……」
 好きな人なんて今まで考えたことなかったなあ…………あれ? 考えたことなかったっけ? なんかこう、引っかかるような気がする。ん……駄目だ。良く分からない。
「えっと……鈴の真似ってわけじゃないんだけど、良くわかんないかなぁ。その、みんな気になるって言うか……
 鈴は見てないと心配というかほっとけない感じだし、小毬さんと一緒にいると和むし、葉留佳さんといると退屈しないし。
 クドといると楽しいし、西園さんといると落ち着くし……」
 よく……わかんないな……
「それに……来ヶ谷さんといると…………」
 そこで僕の意識は途切れた。





 ふと意識が浮き上がってきた。
 最初に聞こえたのは誰かの声。たぶん話し声。どうやらその声で目が覚めたようだ。アルコールを摂取して寝ると意識の覚醒も早いって言うし。そういえば今何時だろう。
 掛け布団から這い出て(なぜか布団が敷いてあった)携帯を探す。
「ようやく、といったところかな?」
「……確かにそうだが、まあ今までのように急ぐ必要はないだろう。あいつは十分に成長した」
 ふと話し声が聞こえた。そういえば話し声で目が覚めたんだっけ。声の元を探るとどうやら窓際のほうからだった。
 そっと足を忍ばせて近寄ると、少し奥のほう、こちらから見えないような位置で二人の人影が向かい合っていた。
「そもそも今回のゲームはアレが目的だったのではないのか?」
「ご明察……いつから気付いていたんだ?」
「そうだな、恭介氏がくじの番号を知っていると分かったときからかな」
「ほう……流石だな」
「それを利用して何かやらかすと思っていたが、まあなかなかだったよ」
「だが来ヶ谷も番号を知っていたようだが?」
「いや知らなかったよ。ただ誰がどの番号を引いたか覚えておいて、あとは記憶しながら順番を追っていただけだ」
「それにしたってたいしたものさ」
「まあそれはいいとして。しかし初恋の人か、なかなか面白い聞き方をしたものだな。それにいつの間にか『好きな人』に変わっていたしな」
「仕方ないだろう。それが一番良かったんだよ」
「確かに。鈴君や理樹君は今まで恋愛などしたこと無さそうだからな」
「来ヶ谷もだろう?」
「……それは関係ないのではないか?」
「さて、どうだか。関係あるかどうかは来ヶ谷自身が一番知っているんじゃないか?」
「……まったく悪趣味な。人の夢を覗くのはいかがなものだと思うが」
「誰かに言ったりするつもりはないさ。ただ俺はあいつらに幸せになってもらいたいだけさ」
「とことんお節介だな、キミは。まるで父親のようだよ」
「否定はしないさ……」

 話している内容は良く分からなかったけれど、それでも二人の仲が良さそうだというのは理解できた。僕は話しかけることなくそのまま戻り布団に入った。
 恭介が僕たちのことを考えてくれているのも十分に理解できた。
 ただ、一つだけ気になることができた。
 恭介は誰が好きなんだろう。





  ども。じかんねえっす。(⊃Д`。)゜
 そろそろ学校始まるんで更新スピードががくんと落ちる予感↓ でも質は下げたくねえです☆

 えと、やっぱ書かないといけないものより書きたいものですよね?
 てなわけでリトバスもう一個アップします。ドラゴンはもうチョイ待ってて。すぐあげるんで。

 次回はCLANNAD風おまじない(オリジナル)+α@かなちゃんです(はーと)






テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

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