隠れオタでもいいじゃないか

主にPCゲームの二次創作を書かせていただいています。  あとは最近やっているゲームやら読んでいるラノベやらのこととか……。

「それは舞い散る桜のように完全版」2008年10月30日発売

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  [ 藤浪朋子 SS ]   # 74 

それはすぐ傍に(28)
 子猫はとても寂しく思いました。少年の傍には自分の居場所が無いと感じたからです。
 胸がずきずきし、涙が零れてきました。
 一人で町をとぼとぼと歩きました。冬の空は子猫の姿を何も言わず見下ろしていました。
 人がたくさんいるところへ行ったのに、だんだんと寂しくなってきました。そこにはまるで自分の居場所が無いかのようでした。
 子猫は家に帰ろうと思い後ろを振り返りましたが、そこで驚くことに気がつきました。子猫は帰り道が分からなくなってしまったのです。
 知らずしらず遠いところまできてしまった子猫は迷子になってしまいました。きょろきょろと辺りを見回しても自分がどこにいるのか分かりませんでした。誰かに尋ねようとしてもみんな無関心に通り過ぎて生きます。
 子猫は必死に歩き回りました。けれどますます迷ってしまうばかりでした。
 どれだけ探したでしょうか、とうとう歩きつかれてその場に座り込んでしまいました。
 声を上げて鳴き続ける子猫に誰も気がつきません。
 一人、また一人と子のこの前を通り過ぎていきます。
 涙は止まることなく溢れてきます。
 そんな子猫の前で足を止める人がいました。
 子猫が泣き顔のまま視線を上げれば、そこにいたのは絵描きの少年でした。冬の寒さにも関わらず汗をびっしょりとかいていました。けれど少年の顔には疲労ではなく安堵の表情しかありませんでした。
 一番でも二番でもなく、順番など関係ありませんでした。自分にとっても、相手にとっても、ただ大切であればそれでよかったのです。
 思わず少年の腕の中に飛び込んでいました。
 迷子だった子猫は、ようやく安心することが出来ました。

     (28)

 校門から見上げる空は生憎の曇天だった。なにをもって生憎なのかはよく分からないが。春や夏ならば晴れがいい天気だと思うが、冬の空ならば雪が降るのが相応しい天気とでも言うのだろうか。まあいい天気などというのは、その個人がそのときの都合で勝手に決め付けるものなので一概にどれがいいなどと定義できないのだが。
 約二十分ほど、そんなどうでもいいことをこの寒空の下で延々と考えながら時間を潰しているのだが。現在の時刻は既に八時十五分を回っている。予鈴が二十分になることを考えるとそろそろ教室に向かわなければ間に合わない。
 というのも昨日の海での会話が発端だった。久々の学校、それもようやく手術をし健康とは言えないまでも病人ではなくなったのだ。これからクラスの中でも馴染まなければならないと考えると非常に緊張してしまう。受験など受かって当たり前の気持ちだったから、今は比べるまでもなく心臓が高鳴っている。足が震え気味なのも寒さのせいでは無いだろう。
つまるところ一人で登校することは出来ても、教室に入る度胸はちっぽけな胸には詰まっていなかったというわけだ。比喩的な意味合いであって、決してスタイル云々の話ではない。
 そういうわけで一緒にドアを潜る相手を待っているのだが。
「遅い……」
 時計を見ながら何度目か分からない呟きを零した。本気で先に行こうかと思った矢先、目の端に特徴的な色が引っかかった。
 ゆらゆらと風にたゆたう髪。にび色の空を背景に映える月の色は、ただそこに居るだけで確かな存在感を見せ付ける。一歩、また一歩と歩調を乱すことなく優雅に――――とは程遠かった。近づくにつれよく分かるが、のんびりしているというか無頓着というか、遅刻ギリギリであるのを気にしているようには見えない。
「ごめーん朋子ちゃん。待った?」
「うん。かなり」
 私が着いてから三十分近く遅れてようやくエリスちゃんがやって来た。詳しい時間は決めていなかったものの、これほどまでに遅くなるとは思っていなかった。
「ごめんね〜。急いだつもりだったんだけど遅くなっちゃった」
 手を合わせて謝るエリスちゃんだったが、私の観察眼が「ダウトッ!!」と声高らかに宣言した。
 まず乱れていない制服、次に整った髪。汗一つかいておらず、上気もしていない肌。整った呼吸。結論――のん気に歩いていました。
「……何時に家出たの?」
「えっと……何時だっけ? 起きたのが七時三十分ぐらいで、それからご飯食べて……」
 うんうんと唸りながら朝のスケジュールを挙げていく。朝食をしっかりとって身だしなみを整え急ぐことなく歩いてくる。それを聞いているとまあ確かにこの時間になるだろう事は想像できた。というかゆっくりしすぎだ。とりあえずあと十分早く起きれば間に合うだろう。
「上倉先生と一緒にこればいいんじゃないの?」
「お兄ちゃんとか〜。でもお兄ちゃんって私を起こすのはいっつもご飯作った後だから。それから急いでも私が食べ終わったらすぐに出ちゃうもん」
 いくつか問題点があるのでは。
「……上倉先生に起こしてもらってるの?」
「そうだけど?」
 それが何か? とでも言いたげな口調。決して優越感などではなくそれが当たり前、しないほうが変だと言うようにエリスちゃんは頷いてみせた。
「前まではお兄ちゃんの布団で寝てたんだけど最近は自分の布団で寝ろって言うんだよ。冷たいと思わない?」
 ……私にどんな答えを期待しているのだろうか?
「ま、まあそろそろ一人で起きられるようになってほしいんじゃないかな?」
「む〜。でもねでもね、その起こし方が酷いんだよ。私が布団に包まって寝てたら、こう布団の端を持ってずばーって。しかもその後ごろごろごろーって転がっちゃったんだよ?」
 テーブルクロスを引くように腕を動かす仕草を見せる。まあ言いたいことは理解できるのだけど。
「随分とエキセントリックな起こし方ね……エリスちゃんも驚いたんじゃない?」
「あっ、なんかそれでも目が覚めなかったらしいの。後になってお兄ちゃんがそう言ってただけだから良く分かんないんだけど」
 ――エキセントリックはそっちか!?
 まあそんな話をしながら廊下を進んでいたのだが、いざ教室の前まで来るとまるで枷でも填められたかのように急に足が重たくなってしまった。
「朋子ちゃん?」
「あ……な、なんでもないから」
 とは言ったものの確実にばれているだろう。登校拒否になる人間の気持ちが良く分かる、
というより私も立派な登校拒否だろう。
 硬くなった身体をほぐすように大きく深呼吸。震える鼓動を押さえつけドアに手を伸ばし――
「早く入ろうよ」
「きゃっ!?」
 背に衝撃。何かを理解する前に身体が前のめりになる。何とか持ちこたえたものの、二歩三歩と蹈鞴を踏んで勢いよく飛び込んでしまった。
「あ、ごめん。そんなに強く押したつもりはなかったんだけど」
 く、これが身体能力の差か……どこまで私の身体は錆び付いているのだ!? ではなく。
「まったく、危ないでしょ。いい? 人の背中を押すのは危険だから止めときなさい。そもそもエリスちゃんは意外と力あって私は人並み以下の体力しかないんだから」
「それはそうだけど、朋子ちゃんがドアの前で止まってるから。もう予鈴なりそうだったし」
 まるで見計らったようにエリスちゃんの言葉に合わせてチャイムが鳴り響いた。確かにギリギリだった。それに遅れてきたのはエリスちゃんだったとしても、私から頼んで待ち合わせたのだ。遅れそうになるのが嫌ならば先に行っていればよかっただけの話。それを棚に上げて怒るのも筋違いだろう。
「まあ、そうね」
 この話はここで終わりにしておこう。
「えー、鳳仙、藤浪。話が終わったのなら席についてくれないかな?」
 思わぬところから割って入った声に驚きの表情を向ければ、そこには困ったような怒ったような、それぞれを足し合わせた笑顔を浮かべた担任が立っていた。加えて私たちに向けられる顔、顔、顔。クラス全員の視線が私たちに向けられていた。あんな騒ぎながら入ってきて、そのままドアの前で突っ立っていたならば注目されるのも当然だけれど。
 羞恥と陰鬱たる気分を抱えながら自分の席に向かう。せめてもの救いは私の席が後列にあることか。
 それにしても厄介なことになってしまった。手術前と後では状況が全く違う現在、私の気分は転校生も同然だった。まさに新たに人間関係を作らなければならないこの状況、むしろ私に対する壁があることを考えると転校生よりも不利かもしれない。そんな中で先ほどのような奇妙ととられる行動で注目されたとなるとますます生活しにくくなるではないか。
「――ところで藤浪」
 同じく自分の席に向かうエリスちゃんを見送りながら、思わず溜息をつきそうになったところで唐突に名を呼ばれた。反射的に顔を向ければ声の主は担任だった。
「手術したんだよな」
「え、はい……」
 意図が理解できず曖昧な返事を返す。
「あまり無理はせずに調子が悪いようだったら友人に助けてもらえよ」
「は、はい……ありがとうございます」
 その瞬間教室がざわついた。
 なぜかクラスの人間が私のことを見ている。そのプレッシャーに思わず気おされそうになってしまった。さらに不思議なことにエリスちゃんは笑顔だったが。
「ん、んん。それじゃあホームルームを始めるぞ――日直」
「きりーつ」
 腑に落ちないまま立ち上がった。


「Time passed quickly, and Tommy became more active every day. In no time class was over.」
「エクセレント、ミス・フジナミ」
 一時間目――英語。
 休んでいたのはそれほど長くなかったため、浦島太郎のようにはならなかった。一応自分でも予習をしていたため楽だったと言えた。若干教師の発音が駄目すぎたのが気になったが。

「ねえ、エリスちゃん?」
「なあに……朋子ちゃん……」
「……どうしたの?」
 授業が終わっても立ち上がろうとしないエリスちゃんに声をかけたのだが、そこにいたのは抜け殻となった人型だった。
「ねえ……朋子ちゃん。朋子ちゃんってずっと休んでたよね? どうしてさっきの授業分かるの?」
「どうしてって、そんなに難しかった?」
「難しかったよ!!」
 半ば逆ギレのような唐突さで声を上げるエリスちゃん。
「あ〜どうして休み前にこんな量の宿題出すのよ〜」
「確かに結構あったけど、このぐらいの内容だったらすぐ終わるんじゃないの?」
 撫子の授業はそれなりに進んでいるけど予習と復習をしていればそれほど苦になるわけではない。
「……エリスちゃん、なんでそんな顔してるの?」
 信じられないものを見る目つきで見られても困るのだが。
「そうだよね……朋子ちゃんはエリート組だったもんね」
「エリート組みって……ちょっとそんな老け込まないでよ。ほら、別にテストがあるわけじゃないんだしそんなに焦らなくても……」
「だって終わらせないと冬休みに補習だよ!? それなのにこんなに難しいなんて……」
 ずーんと擬音とともに沈んでいくエリスちゃん。なんと声をかければいいのか悩んでいると、何かに気がついたようにエリスちゃんが飛び起きた。
「ねえ朋子ちゃん。さっき授業分かったっていってたよね?」
「う、うん」
「だったらさ、教えてくれないかな。宿題」
 暗に写させてといっている笑顔。自分でやらなければ意味が無いんじゃないかと思ったけれど、ちょっと打算が浮かんできたので保留。
「いいけど――」
「いいの!?」
 目をキラキラさせながら迫ってきたエリスちゃんの前に指を一本立てて言う。
「交換条件ね」

「だからさっきの訳は『In no time』で無い時間、つまり時間がかからなかったって意味なの」
「うんうん」
「その次の『over』は超えるよりは終わるの方が近いから。『out』とかも同じような使い方があるから直訳して混乱しないこと」
「なるほど」
「だから訳すと『トミーは日に日に活動的になり、あっという間に授業は終わってしまった』となるわけ」
 説明しながら想う。この文はまさに今の私を示しているのではないか。実を言うと先ほどの授業はあまりに早く終わってしまい驚いた。真面目に聞いていたというのもあるし、意外に簡単だったのもある。しかしより大きなウェイトを占めるのは訳にあるとおりだ。
 全ては気持ちしだい。やるかやらされるか。小さな世界、けれどその小さな世界も自分の想いひとつでこうもありようを変えることを思い知った。
「質問です!! どこから授業という単語が出てきたんですか?」
「この『class』っていうのはクラスって訳すんじゃなくて授業って訳すの。どうしてかっていうと授業は教室で行なうでしょ? だからクラスじゃなくて授業って言うのよ。これもテストに出やすいから注意ね」
「はい先生」
 元気よく頷くエリスちゃんとともに廊下を歩く。
 何をしているかというとさっきの復習兼、宿題のためだ。今の時間は一と二の休み時間なのだが、ちょっとやんちゃをして抜け出してきた。一応クラスメイトには保健室に行くと伝言を頼んである(伝えたのはエリスちゃんだが)ので大丈夫だろう。一応まだ身体が弱いという認識が植えつけられているのであっさり信じてくれるだろう。まあ保健室に行くのは嘘ではないし。
 それにしても私が身体が弱いことをダシにする日が来るとは思っても見なかった。それも隣を歩く少女たちのおかげだ。私には無い強さ、というよりは私が弱すぎたのだが、それでもみんなはすごいと思った。具体的には言えないのだが、生き方というか在り方というか、そういうのが眩しいと思った。
「でも朋子ちゃんってすごいんだね」
「すごい? 私が?」
 丁度思っていたことをそのまま返されてしまった。その根拠が思い至らなず首をかしげる私に恨みがましい視線を向けてくる。
「だって私なんて毎日授業受けてても分かんないのに、学校休んでた朋子ちゃんが授業分かるなんておかしいよ」
 なんだ、そんなことか。
「エリスちゃんだってやれば出来るでしょ? ちゃんとこの学園に入れたんだからテストだって大丈夫よ」
「そうかな……私の場合は推薦だったから」
 勉強のほうは駄目なんだよね、と憂鬱そうな表情を浮かべるエリスちゃん。
「そもそも私は日本にいるんだから英語なんてできなくても問題ないんだし」
「ねえ、その容姿でその台詞はどうかと思うわよ」
 初対面では絶対に英語を使おうかと思うから。
「美術部か……」
 あまり吹聴する様子はないけれど彼女は絵画界期待のホープらしい。みんな(それほど知り合いが居るわけでは無いけれど)が言うには『天才』とのことだ。コンテストに出るたびに賞をさらっていく彼女を皆がそう讃える。そのせいかクラスの人間との間に壁のようなものを感じるのは私の思い過ごしなどではないだろう。良く言えば天真爛漫、悪く言えば自分本位な彼女の性格もそれに一因している。
「でもとりあえず勉強し特に越したことはないと思うけど。将来いつ必要になるか分からないし、それ以前に卒業するためには出来なきゃいけないんだし」
「朋子ちゃんまでお兄ちゃんと同じこと言わなくてもいいのに」
「上倉先生と、一緒?」
「……変なこと想像してないよね?」
「してないってば」
 一緒という言葉に思わず緩みかけた顔を引き締める。正直自分の価値観が同じところにあるというのはいい気分だった。恋人同士が別れる原因となるのは価値観の相違が原因となるところがほとんどだという話を以前見たことがある。別に私が付き合っているわけではないけれど。
 閑話休題。とりあえず今は第一の目的を果たすことにしよう。これ以上考えているとエリスちゃんが不機嫌になりそうだし。
「失礼します」
 軽くノック。続いてエリスちゃんも断りをいれ室内に入る。
 保健室独特の消毒の匂い。慣れ親しんだこの感覚だが、もう慣れてはいけないと思う。
「あれ、藤波さん? どうしたんだい。それに鳳仙さんも」
「やっと手術が終わったので一応報告しようかと」
「私はその朋子ちゃんに連れられてやってきました」
「ああ、そのことか。ちゃんと聞いているよ。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
 ちょっと照れくさい。坂井先生には私の我が侭で随分とお世話になった。仮に私がちゃんと手術を受けていれば坂井先生の仕事が半分になっていたはずだ。
「この前学校に電話が来たからね。今日からまた学校に通うからよろしくお願いします、ってね。それに朝も僕のところへやって来たからね」
「やって来たって、誰がですか?」
「ん? 上倉先生だよ」
「お兄ちゃんが?」
「ああ。エリスと藤浪がお世話になってますって」
 恥ずかしい。これじゃあ完璧に保護者じゃないか。私のことをそこまで考えていてくれるというのは嬉しいけれど素直に喜べない。完全に生徒で妹で子供扱いだ。ものすごく複雑な気分。エリスちゃんは純粋に嬉しそうだけど。
 というより見た目健康優良児のエリスちゃんがそんなに保健室の世話になっているなんて知らなかった。少なくとも私は保健室であったことはない。まあ私がそこまで出席しているわけではないけれど。
「藤浪さんは手術をしたけれどまだ体の弱さは治っていないから、無理をしないように僕からも言っておいてほしいってね。彼には君たちが今日僕のところに尋ねてくるところまでお見通しだったようだね」
「さっすがお兄ちゃん。私のことは何でも知ってるんだね」
「相変わらずだね、鳳仙さんは。校内でそうやって呼ぶと上倉先生に叱られるよ」
「大丈夫ですよ。なんだかんだ言ってお兄ちゃんは喜んでますから」
 これもまた意外、軽口を叩きながら笑顔を浮かべるエリスちゃんを見ながらそう思う。社交的に見えてかなりの内弁慶で人によって対応に差がある彼女がこうも親しげに話すとは。その様子からも結構ここに来ていることが推察される。
「そういえばこんなことも言っていたな。二人が仮病を使って保健室に来るようなら厳しく指導してやってくれって」
「え……?」
「あ……」
 時間は既に次の授業が始まっている。二時間目は……国語か。まあ私は問題ないけれどエリスちゃんはどうなんだろう。
「どうするエリスちゃん」
「うう……お腹が……」
「…………」
 べたべただった。第一保健室でその嘘はどうなんだろう。上倉先生からの注意もあったことだし。確かに授業の途中から教室に入るのは緊張するけれど……そう考えるとなんだか私まで迷ってきた。
「はっはっは。まあどちらにするかゆっくり決めるといいさ」
 言いながら椅子を引っ張り出して私たちの前に置いた。
「いいんですか? 明らかに仮病ですけど」
「僕はただの養護教諭だからね、教師みたいな指導は出来ないよ。ただ一人の大人としての意見を言うと藤浪さんはもう少し楽に生きたほうがいいかな」
 僅かに逡巡したが、結局出された椅子に座ることにした。それに坂井先生の話にも興味があった。
「楽に、ですか……?」
「うん。例えて言うならば今までの君は張り詰めた糸みたいだったからね。いつ切れてもおかしくなさそうだった。ただその糸を何重にもぐるぐる巻きに糸を重ねていって、頑丈にはなったけど逆に枷となって身動きが出来なくなっていたようだけどね」
 枷か。その表現は正鵠を射ているのかもしれない。私は何にも囚われないよう生きているようで、実際は囚われてはいけないという概念に囚われていたんだろう。
「きっとそれを解いてくれたのが上倉先生なんだろうね。けど今の君はちょっと無防備で打たれ弱いところがあるから、もう少し気を緩めてみるのも悪くないんじゃないかな」
 気を緩めるか。言葉にすると簡単そうだけど果たしてそうも簡単に自分の生き方を変えれるだろうか。一応自分の中では変わろうと思ったけれどそれは周囲との協調を考えようといった程度。気を抜いて生きると言われてもどうすればいいんだろうか。
「そんなに難しい顔をしなくてもいいんじゃないかな。要するにたまには考えずに行動してもいいんじゃないかって事だよ。そのあたりは友人たちの付き合いの中で学んでいくといいさ」
「そうそう。朋子ちゃんって融通が利かなさそうだよね」
「気の抜きすぎも悪そうだけどね」
「うぅ……朋子ちゃんが苛めるよ」
 ちょっとムッと来たので反撃。まあムッと来るのは自覚しているからなのだけど。
「要するに極端なのはよくないってことだよ。心にも身体にもね」
 そんな私たちの様子を見ながら坂井先生が言う。その言葉には上倉先生とはまた違った説得力を感じる。
「僕の仕事は君たちが健康で過ごせるようにすることだから、また気軽に来るといいさ」
「そうさせてもらいます」
「朋子ちゃんどこ行くの?」
 椅子から立ち上がる私に不思議そうな声をかけた。
「授業に戻ろうかなって」
「今から戻るの?」
「やっぱりサボるのは良くないからね」
「固いよ〜」
 不満げな口調だけれどエリスちゃんも立ち上がる。交換条件として保健室まで着いてきてくれたけど、多分そんなものなくても来てくれただろう。打算的な部分がなかったわけではないだろうけど、おそらくそれが友人というものだろう。
「失礼しました」
「ありがとうございました」
 先生に礼をして保健室を後にする。
 これから徐々に慣れていって授業を受けるのも退屈になっていくのだろうか。休み時間が待ちどうしくなって、友人と会うために学校に来たりするのだろうか。部活に入ったりもするのだろうか。
「部活か……」
 教室に向かいながら想像する。何一つ決まっていない未来。まだ学校生活は一日目だけど、幸先の良いスタートを切れた気がした。





 ども。今回は比較的早く更新できたかと。まあそれまでに随分と時間かかったんで、ね。
 しかしラブコメになるとか言っておきながら彼は出てきてないからね。まあ坂井先生がいい感じに出せましたけど。上倉先生が兄なら坂井先生は父みたいな感じで。
 とりあえず次はちゃんと出しますんで。





テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

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